「(オンライン試写会は関係なくネタバレ扱い/関連知識含)この映画の背景となる知識には鑑賞前に目を通したほうが良い」人間の境界 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
(オンライン試写会は関係なくネタバレ扱い/関連知識含)この映画の背景となる知識には鑑賞前に目を通したほうが良い
今年159本目(合計1,251本目/今月(2024年4月度)33本目)。
(前の作品 「ヘレディタリー 継承」→この作品「人間の境界」→次の作品「マリウポリの20日間」)
初夏を思わせるこの時期にオンライン試写会に招いてくださったfansvoiceさまに感謝を。ありがとうございます。
さて、この映画は分野的には「映画」であるし、toho系での放映の予定のようですが、その中でも「あえてどれにいれるか」なら、実際にはドキュメンタリー形式ではないものの「ドキュメンタリー映画」ということになろうと思います。
日本では、ロシアのウクライナ侵攻にかくれてこの「ポーランドとベラルーシの国境問題」が報道されることがきわめて少なく、このことを理解するにはかなりの知識量が必要です。幸いにも「クルド人」という語からある程度「ひもといて」見ることができるのは、ひごろから外国人問題に興味関心をよせる一人の行政書士の資格持ちという「地の利」なのだろういうところです。
ドキュメンタリー映画なので「映画という映画」のストーリーがあまり存在せず、「各自で考えてね」という作りになっています。また、当該国ほかでは日本の戦中戦前のように「検閲」が残る国もあり、さすがに「これじゃ放映できない」ということでやり直しを命じられ、この映画で放映されるほどソフトに「作り変えて」放映できているというのが、この問題の根深さといったところです。
かなりの知識を要する問題ですので、説明も入れました。
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(減点0.2/見るためにかなりの知識を要する)
おそらく、高校世界史あたりでは無理で、日本で外国人問題といえば行政書士の取次がありますが、実際にポーランド・ベラルーシのこの問題を扱うわけではなく(そんな場所に事務所を構えるわけではなく)、かなりの知識を要する映画です。換言すれば「NHKなりニュースなりにいくらアンテナをはっているか」の勝負になっている部分がどうしてもあります。
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(減点なし/参考/この映画の背景)
▼ ベラルーシについて
ベラルーシは外国人(移民)受け入れが一時期盛んでした。この中には、いわゆるクルド人も含まれます。一方で、ベラルーシは「欧州最後の独裁国家」と称されるように大統領がいて、その大統領の考え方一つで次々に政策が変わっていき、「移民を利用して事実上の領土を広げよう」という考え方をもっていました。また移民(特にクルド人)も「真の自由が欲しかった」(ベラルーシは受け入れだけは盛んだったものの、国として成立するのか怪しいくらいに経済力が貧しい)事情があり、ポーランドを目指すことになります。これがこの映画の「ポーランド」の意味ですが、ポーランドを経てドイツ(ドイツは移民に対してはきわめて寛容な国として知られる)を経るという構想が一般的でした(ドイツはポーランドを国境で接しているため、ポーランド経由でないといけない)
▼ ロシアとベラルーシの関係
ロシアを西洋の国扱いとするかは難しいですが、地理上、北側に存在するロシアにとっては、ヨーロッパに近い国にロシアの「親ロ(=ロシア)国」を作っておくことはロシアにとっても好ましいことで、また独裁で知られるベラルーシはヨーロッパから経済制裁を受けてもロシアという大国から多かれ少なかれ援助が得られるという事情もあり、この2国は基本的に「仲良し」です。これが、この問題で起きた事情にロシアなどの大国が介入していない「もう一つの」理由です(もちろん、ロシア・ウクライナ戦争が勃発していた中では、ロシアはそれどころではなかった、というのも理由)。
▼ ポーランドの考え方とベラルーシの考え方
ポーランドも、真に困っている難民までも排除するという立場に立っていません。実際、ポーランドも第二次世界大戦以降、いろいろな紆余曲折を経た国だからです。しかし、ベラルーシが難民を「募って」(ここでは、クルド人等を指す)一気にポーランドに「攻め入る」(=国境を超えるような行為をする)のは、もはや領土侵犯でもあり、それには強く対抗したという事情もあります。これが映画で描かれている事情です。
一方、それなら最初に招いたベラルーシが責任を取ればよいのではということになりましょうが、決して豊かな国でもないベラルーシで、そもそも「不純な目的をもって」募って「ポーランドの国境を破ってやろう」などと考えていたわけですから、失敗したら救助しますよということにならず、映画のように「どちらの国からも見放される」という悲劇が起きてしまったのです。
日本ではクルド人問題といえは一部の地域に多く住まれており、中には過激な行為を取る方もいらっしゃいますが、それは「クルド人全体が危ない存在だ」ということを意味「しません」(このことは「クルド人」を「何人(じん)」に置き換えても成り立つ)。日本から見たときには2つの国の領土問題争いとして描かれているこの映画ですが、日本にも適法に在住している方も少なくないクルド人問題を描いた作品ということで、この点にアンテナを張っている方にはおすすめです。