悪は存在しないのレビュー・感想・評価
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優しくない・厳しくない自然
この作品をみるときに大事なのは、これがおそらく「大作と大作の間につくられた掌編」だということですね。『ドライブ・マイ・カー』と、来るべき名作との間をつなぐ習作なのです。
掌編なのだと分かったうえで見れば、すぐれた映画的完成は画面に満ち満ちています。自然と人間の世界はただ並立してるだけで、自然は人間にとって善でも悪でもない。自然がもたらす恵みも、津波や地震のような天災も、自然の一部としてただそこにあるだけだ、ということを画面全体で定着しています。
それを実現するために、この作品の監督は自然の暮らしでただ静かに生きる人、都会で暮らす人々の猥雑さ、それらに対して何を言うわけでもなくそこにある自然の姿、をていねいに組み立てています。見るべきはこの映画的達成です。
エンディングは様々に解釈しうるでしょうが、おそらく「互いに干渉しない、ただ並立しているだけ」の人間と自然の平和な共存関係が、あるところで破綻する可能性を描いているのかもしれません。
ウィキペディアにこの映画の項目が作られていて、全体に日本語版としては意外によくまとまっていて感心したのですが、ある時点で「あらすじ」にどこかの迷惑ユーザーがエンディングを加筆して、この接ぎ木された部分だけ文章はヘンだし要約は的外れだしで呆れました。〈画面そのものを正確に見る〉のが実はどれほど難しいか、このしたり顔のバカ加筆がすばらしいサンプルになっている。
映画はただまっすぐ画面を見るべきだという姿勢は、『ドライブ・マイ・カー』よりさらに深化されています。
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