「似非自然主義」悪は存在しない sorayasachiさんの映画レビュー(感想・評価)
似非自然主義
自然の中に溶け込むようにして暮らす親子を描きたかったのでしょうが、日夜山の中で暮らしているという設定にも関わらず、父娘ともども新品でピカピカの服を着ている時点で急速に冷めてしまいました。娘なんて眉まで綺麗に整えてますよね?全体的に山の中で暮らす父子家庭っぽさが皆無でした。傷ついた鹿に自分達を重ね合わせるようなエンディングへとつなげるのであれば、もう少し泥臭い生活感をにじませるべきではないでしょうか。本作ののテーマであるはずの人と自然との共生って、森の中を歩くシーンと、水汲み、薪割りぐらいにしか描かれていませんよね。
またグランピングに関する説明会のありようにも、違和感しか覚えません。説明された内容で行政が開発許可を出したのだとすれば、住民が責めるべきは許可権者である行政でしょう。合併浄化槽の位置や容量に問題があるのだとすれば、それで良しとした行政が悪いのは言うまでもありません。さらにそんな欠陥事業に補助金まで交付するというのであれば、どう考えても悪は行政側にあるわけです。ところが本作に登場する住民達はただひたすらに事業者のみを糾弾し、批判し続けます。ルールに則って開発を進めようとする事業者が悪しざまに言われる所以はありませんよね。この町に住む住民の中には、物事の道理を理解している人間は一人もいないのでしょうか。
他にも様々引っ掛かる部分ばかりが目立ち、個人的にはさっぱり楽しめませんでした。職業「便利屋」でお金には困っていないと言いつつ、具体的な仕事内容は水汲みぐらいしか描かれないし。その割にピカピカの新車のSUVを乗り回しているし。水汲みってずいぶん儲かる仕事なんですね。そこは使い古したジムニーとか軽トラで良かったんじゃないですかね?田舎暮らしや自然との付き合い方、行政の仕組みについてよく知らない人達が、頭の中に思い浮かんだそれっぽいイメージをよく調べもせずにただ並べて作り上げた映画、という印象です。エンターテインメントである以上フィクションが前提になるのは当然ですが、最低限のリアリティーは担保して欲しかったと思います。