「塵の残像」悪は存在しない penさんの映画レビュー(感想・評価)
塵の残像
見終わってしばし茫然とし、少し狐につままれたような感覚がありましたが、
わかりやすい伏線も含め、ラストに全体の構造がその姿を現したとき、少し戦慄を覚えるような感覚がありました。
作品は「石橋英子さんライブ・パフォーマンス用サイレント映像『GIFT』の素材となることを念頭に置いて、まず従来手法で一本の映画を作る」プロジェクトの一部として完成されたものという知識はありましたし、インタビューで「『塵』についての映像が撮りたかった」といった監督のコメントも読んでもいましたので、何かイメージビデオ的なものを想像していましたが、想像は全く異なっていました。
「数世代後には地球上にはどこにも人類が住めるところはなくなっている」可能性が日に日に高まっているのは何故なのか?ウクライナ、ガザ、テロ・・・、生存の場所を巡る悲劇・憎しみの連鎖が現代においてもなお繰り返されるのは何故なのか?その問いを巡る答えが、この日本という小さな島国の、森に囲まれた桃源郷のように見える小さな町のミニマムな環境下においても、なお成立しうることに驚きを禁じ得ませんでした。
HANAが出会った○○は、エリセの「ミツバチのささやき」でANAが出会った精霊(=フランケンシュタイン」に重なり、HANAが樹林の中を静かに歩む映像は、タルコフスキーの「僕の村は戦場だった」で少年兵イヴァンが沼地の樹林を一人銃をもちながら歩くあの奇跡的な冒頭のシーンに重なります。そういえば本作が韻を踏んでいる、これら過去の名作はいずれも、内戦や戦争がその背景として成立している作品です。
バランスが崩壊した後に残る「塵」。
不安な印象を喚起する音楽とともに映し出された映像に刻印されていたのは、その残像でした。