「映画的なショック」悪は存在しない あげ玉さんの映画レビュー(感想・評価)
映画的なショック
森の中の移動ショットが素晴らしい。山の霊性、人の関係性、夢の中、いずれも説明的でなく絵でしっかりと描き出しており、しかもとても美しい。
薪割り、水汲みなどをロングで長回しするショットも良い。永遠に見続けたいと願うほど魅力的。長回しの中、高橋が見事に薪を割る瞬間がこの映画のひとつのクライマックスになっている。
監督が得意な会話劇も素晴らしい。無駄なカット割りをせず、すべて引きのショットでドキュメンタリータッチに描いた説明会シーン、車中で芸能事務所のふたりがお互いのことを話すシーン、いずれも精緻。
話されている内容はドラマチックでも何でもないし撮影もいたってクールだが、だんだんと感情が高揚し胸が熱くなってくる。これぞ濱口映画。
ラストのつるべ落としはネタバレになるので書けないが、とても映画的なショックが与えられる。
濱口組といってもいいような人たちと、演技経験のない主役を組み合わせたキャスティングも見事。
そもそもMVとして始まった企画なのに、音楽が映像のクオリティーに追いついていないのが残念。
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