「記憶の多様性の肯定」あの歌を憶えている HKさんの映画レビュー(感想・評価)
記憶の多様性の肯定
シルヴィアとソール、ふたりが惹かれあっていく心の動き、
関係性の変化が丁寧に綴られていく。
クローズアップ少なく、引き気味で背景の含まれる様々な構図が使われていて
生活している環境、近しい人達の関係性が余白たっぷりに豊かに描かれるので、
ストーリーに劇的な展開がなくても、まったく飽きずに楽しく没入して観れた。
シルヴィアが過去のトラウマについて家族と対峙するクライマックスシーンでも
引いて固定した構図で群像として提示し、
安易な激性ではなく、関係性の描写を重視するスタンスを貫く姿勢に感心した。
登場人物の個々のエピソードについて、
結局事実はどうだったのか、不明瞭のまま終わる部分が多く一見モヤモヤするようだが、
逆にその不明瞭さが、この映画のテーマとして記憶の多様性の肯定、
記憶は事実か否か、憶えているか、正しいかどうかが全てではない、
各人個々の心の内面に残って、蓄積されているものが真実なのだ、
という主張を語っているように思え、
とかく悲劇的に描かれがちな記憶を失くすことに対して、
少し前向きな力をもらえた気がした。
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