「久々の邦題詐欺だけど、設定が後半で放置されている方が気になってしまうかも」あの歌を憶えている Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
久々の邦題詐欺だけど、設定が後半で放置されている方が気になってしまうかも
2025.2.25 字幕 MOVIX京都
2023年のアメリカ&メキシコ合作の映画(103分、G)
忌まわしい記憶を忘れたい女と直近の記憶を失くす男との出会いを描いた恋愛映画
監督&脚本はミシェル・フランコ
原題の『Memory』は「記憶」という意味
なお、邦題に使われている「歌」は、おそらくはProcol Harumの楽曲「A Whiter Shade of Plale」のことを指すと思われる
物語の舞台は、アメリカのニューヨーク
ソーシャルワーカーとして働いているシングルマザーのシルヴィア(ジェシカ・シャスティン)は、13歳の娘アナ(ブルック・ティンパー)と暮らしていたが、時折妹のオリヴィア(メリット・ウェバー)に彼女を預けていた
オリヴィアには夫ロバート(トム・ハモンド)との間にマーク(ジャクソン・ドルフマン)、アシュレイ(ブレイク・バウムガーター)、ルーシー(アレクシス・レイ・フォルレンザ)の3人の子どもがいて、アナは彼らよりも年上だった
シルヴィアは13年ほど通っているAA会(アルコホーリクス・アノニマス=断酒会)があって、職場の同僚タリナ(タリナ・ウェブ)、カレン(カレン・ローチ)とともに誓いを守ってきた
ある日のこと、オリヴィアとともに高校の同窓会に出向いたシルヴィアだったが、場の雰囲気に馴染めず、また奇妙な男(のちにソールと判明、演:ピーター・サースガード)が接近してきたために帰ることにした
だが、男はその後もずっと後をつけていて、さらに家の前で野宿をして待ち続けていた
シルヴィアは彼から携帯を借りて、迎えに来れる人に連絡を入れた
ほどなくして、兄のアイザック(ジョシュ・チャールズ)が駆けつけて事なきを得た
それでも、ソールの事が心配なシルヴィアは彼の家へと出向いてしまう
その縁から、アイザックの娘サラ(エルシー・フィッシャー)のアイデアもあって、週末はソールの面倒を見るために来訪することになったのである
映画は、忘れられない女と忘れてしまう男を描いていて、当初は「過去の性暴力の加害者と被害者」という立ち位置だった
それが誤解とわかってからは距離を縮めるに至るのだが、ソール側の執着(妻に似ている)はわかっても、シルヴィアが彼に傾倒していく理由はよくわからない
幼少期の父からの性的虐待、高校での上級生からの性的虐待があれば男性に対する警戒感はものすごいものになる
事実、彼女の家は4重ロックで防犯システムも入っている徹底ぶりなので、よほどの事がなければ男性と深く関わろうとしないと思う
また、ソール側の短期記憶が定着しないというものが本物ならば、日を跨ぐ度に記憶はリセットされていくものだと思うだが、後半はその設定がなかったかのように、シルヴィアに起きたこと、自分に起きたことを憶えているように描かれているように見える
妻に似ているシルヴィアに執着を持っても、アナに関してはそう言ったものもないと思うので、見かける度に「誰?」みたいな感じになりそうに思う
ラストは、アナによってシルヴィアと再会を果たすことになるのだが、「私を信じて」でソールが動くとか、「監禁されている」とアナに訴えるところはどうなんだろうと思ってしまった
いずれにせよ、強烈な邦題詐欺で、歌が二人の何かを結びつけるというものはない
単に流行歌で二人が知っているとか、パイプオルガンの音が好きなんだというソールの趣向を示しているだけで、それ以上の意味もないように思える
これならば、実は本当に高校時代に会っていて、ソールの一方的な一目惚れがあったぐらいの事があっても良いと思う
そして、どこかでシルヴィアがあの歌を歌っているところを見たとか、彼女が好んで聞いていることを知って好きになった、というぐらいの関わりはあった方が良かっただろう
邦題で「歌」を強調したゆえに鑑賞のポイントが変わってしまっているので、この邦題はミスリードすぎやしないかと思った