劇場公開日 2024年7月5日

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「料理は腕だけでするものではない」潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断 うぐいすさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5料理は腕だけでするものではない

2024年7月1日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

一人の潜水艦艦長が、軍人から海の男に還った数日を描いた物語。
本編は近年の戦争映画としては稀なほど詩的な雰囲気で開幕する。前半は出港したカッペリーニ号の日常や英国海軍との衝突を通して、主要な登場人物だけでなく乗組員一人一人にもドラマがあることを感じさせるエピソードが展開される。

後半に、本作の題材として強調されているカッペリーニ号艦長サルヴァトーレの「決断」の瞬間が来るのだが、それがあっさりと描かれていて驚いた。
船乗りとしては目の前の漂流者を救助する、もしくは救援を手配するのが当然だが、軍人としては艦に部外者、ましてや自衛の域を超えて交戦した相手を接触させることはタブーである。もし禁を犯せば彼や部下の軍人生命や名誉が危うくなる可能性があり、艦の状況を考えれば部下の喫緊の安全をも脅かすことになる。サルヴァトーレ個人に限っても、彼は過去の戦線で重症を負っていて前線の軍人としての進退は既に危うく、目の前の橋を渡るのはあまりにも危険である。
そんな彼の内心の葛藤はあまり描かれず、描写の重点は、決断を下した後のサルヴァトーレのリーダーシップや彼の決断に心動かされた海の男達の共鳴に置かれている。

オープニングのロマンチックな導入然り、おそらくこの作品が重要視しているのは作品紹介の第一印象である「艦長の英断と活躍」よりも、「人として当たり前のことを迷わず行える環境の尊さ」や「誰とでも食卓を共にできる幸せ」なのだろう。

また、乗組員が艦砲射撃を見て「これは機械で行う戦争だ」という件があり、現在の遠隔戦闘を想起させるようなことにも触れられるが、個人的には、歩兵時代の死体の山を築く方法ではなく、武器を無力化すれば血を流さずに戦闘を終わらせられるという意味が込められているような気がした。ここでも、戦争の陰惨さよりも戦火の向こうに同じ人間がいることを強調する作り手のスタイルを感じた。

サルヴァトーレの名は現役の潜水艦の艦名になっているそうで、少なくとも現在彼の名は名誉あるものとして伝わっているようで、安心した。

なお、犬は無事です

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うぐいす