「バーンスタインの響き」マエストロ その音楽と愛と 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
バーンスタインの響き
レナード・バーンスタイン。
アメリカを代表する指揮者で作曲家。クラシックやミュージカルなど多くの音楽を手掛けているが、やはり私は『ウエスト・サイド物語』の映画音楽で知る。
そんなバーンスタインをブラッドリー・クーパーが演じる。若年期から特殊メイクを施した老年期まで熱演。
主演のみならず、プロデュース・脚本・監督まで兼任。『アリー スター誕生』で監督デビューながらその手腕が絶賛されたクーパーが、監督第2作の題材に。バーンスタインを敬愛し、兼ねてから伝記映画を構想していたとか。
プロデュースにはスコセッシやスピルバーグも名を重ね、そのリスペクトぶりが窺える。
現在賞レースで軒並みノミネートに連ねる注目作。今年のNetflix映画でも特に期待の一本。
“映画監督ブラッドリー・クーパー”は一発屋ではなかった。
演出面・映像面で冴えを感じ、『アリー スター誕生』の時より堂に入った印象。
特に映像面は秀逸。カメラワークも巧みで、若年期をモノクロ、老年期をカラーで分け、その映像美はクラシックの名画を醸し出す。
偉大な音楽家の伝記。その輝かしいキャリアにスポットが当てられるのが通例。勿論本作でも若くして代打でオケの指揮を執り名を馳せたエピソードから始まり、音楽論や音楽家の卵たちへの指導なども描かれる。
しかしクーパーが主軸に据えたのは、妻との愛。
妻は女優のフェリシア・モンテアレグレ。
演じるのはキャリー・マリガン。
クレジットではクーパーより先に名が出、それも納得の名演。
もっと音楽家としての伝記を見たかった人には期待してたのと違うかもしれないが、音楽家としてよりも一人の人間=バーンスタインにクーパーが迫り、寄り添う。
とあるパーティーで出会った二人。
二人でバーンスタインの楽曲の世界へ体感するなど、瞬く間に恋に落ちる。
子供も3人。仕事も順調で、幸せな日々。
…ただそれだけなら描く必要はない。
幸せと並行する複雑な関係。
バーンスタインが同性愛者であった事を知らなかった。知人に私は夫とも妻とも寝たなんて言ったり。
パーティーで出会った若い男性とイチャイチャ。妻を愛し、同性も愛し、愛に自由奔放。
が、フェリシアの胸中は…。夫が他の女性と関係を持つ事は浮気だが、同性と関係持つのも性的マイノリティーだからと言って寛容される事ではないだろう。これも浮気。
夫に尽くした自分の人生を“鳥のフン”に例えたフェリシアに心痛。
程なくして、フェリシアの胸に腫瘍が…。
愛に奔放だったバーンスタインもさすがに妻に献身。
紆余曲折あったが、何かを前にして、愛を再認識する。
綺麗事と思われるかもしれないが、それでもその愛の営みに心打たれる。
文字通りそれを支えた。キャリー・マリガンの苦悩と病魔と闘病と息を引き取る演技は、圧巻。
バーンスタインが指揮を執る演奏シーンは高揚感満点。
劇中の音楽もバーンスタインの楽曲を使用。正直そこまで詳しくはないが、『ウエスト・サイド物語』の音楽はすぐ分かったね。
特殊メイクはカズ・ヒロ。鼻を強調した特殊メイクに一部批判的な声も出ているようだが、バーンスタインを見事再現した特殊メイクはさすがのもの。3度目のオスカー、狙えるぞ!
伝記映画や夫婦愛のドラマとしてオーソドックスな作り。
『アリー スター誕生』もそうだが、好き嫌い分かれるかもしれないが、これが監督クーパーのスタイルなのだろう。
そこから浮かび上がらせる光と影を包み隠さず。
音楽と愛を奏でて。
バーンスタインという響き。
今年はモリコーネのドキュメンタリーやバーンスタインの伝記。
いずれはジョン・ウィリアムズ(まだ亡くなってないけど)や伊福部昭題材の伝記が見てみたい。