劇場公開日 2025年4月25日

「不安や恐怖を哲学的に描いたSFサスペンス」けものがいる kozukaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0不安や恐怖を哲学的に描いたSFサスペンス

2025年5月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

斬新

「SAINT LAURENTサンローラン」のベルトラン・ボネロ監督が過去、現在、近未来の3つの時代に転生する男女を描いたSFサスペンス。
近未来2044年のパリはAIに支配され、人間の感情は不要とされ主要な職業に就くには感情を消去しないといけない。ガブリエル(レア・セドゥ)は消去を決意しAIによるセッションを受ける。
ガブリエルは得体の知れない不安や恐怖の感情を抱いていてそれを消去するためのセッションとして前世の1910年と2014年にさかのぼる。
それぞれの時代でルイ(ジョージ・マッケイ)に出会い惹かれるのだがガブリエルはどの時代でも悲劇的な予感に支配されている。1910年のパリでは大洪水、2014年のロサンゼルスでは地震や殺人鬼だ。セッションではこうした過去の恐怖を消去するために、DNAを浄化するというものだった。
映画的には1910年のパリを舞台とした時代劇、2014年は殺人鬼が登場するサスペンススリラー、2044年はクールな近未来SFと3つの映画を行き来し飽きることがない。
また、鳥、人形、包丁、ダンスといったイメージが各時代に共通要素として登場するのも不穏。
ストーリーとして語られていないが前世というものが神秘主義的なものと考えると過去のイメージはAIが作ったものだとも解釈できる。
上記共通イメージが反復したり、なぜか同じセリフが各時代繰り返されたり、バグのようにフリーズしたり繰り返したりのシーンがあるのも怪しい。
獣=恐怖のメタファーだとすると、未来の恐怖は人間の感情を管理支配するAIかもしれないという警告とも捉えられる。
各時代の恐怖や不安を演じ分けたレア・セドゥがすばらしい。

kozuka