「さらばハリウッド?!」愛を耕すひと かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
さらばハリウッド?!
デンマーク人監督ニコライ・アーセル曰く、はじめからマッツ・ミケルソンを主人公にした映画として構想した作品だという。この監督、どうもハリウッドの水が合わなかったらしく、何かと制約が多いやり方に雇われた感が半端なかったとインタビューで語っていた。今回キャスティングもスタッフもほぼほぼデンマーク人で固めているせいだろうか、アメリカ的な派手さはないものの、北欧映画らしい重厚感溢れる歴史ドラマに仕上がっていた。
時代は18世紀、退役軍人の救貧院からいきなりデンマーク王室に乗り込んだケーレン大尉(マッツ)は、財務省の役人に不毛の土地ユトランド半島の開拓許可を願い出る。「俺たちが50年かけてダメだった土地を開拓だと?やれるものならやってみな」と期待など全くしていない王室の許可を得たケーレンだったが、次から次へとふりかかる試練にもはやギブアップ寸前だった…
映画原題は『BASTERDEN』。「私生児」とか「ろくでなし」「嫌な奴」という意味のデンマーク語だそうだ。地主が手を出した女中の息子であるケーレンの出自そのものを指しているのはもちろん、ケーレンに何かと嫌がらせをする地元“親の七光り”大地主シンケル(シモン・ベンネビヤーク)を何かにトレースしたタイトルとも言えるのではないだろうか。
不毛の土地“ヒース”をいくら精根こめて耕しておじゃがを沢山収穫してみせたところで、所詮は王室に雇われた一開拓者に過ぎず、やれ不法移民(タタール人少女)ではなく正規の入植者であるドイツ人を使えだとか、収穫の半分をよこせば不問に処してやるとか、測量士やら男爵とかの地位につられてその気になっても、結局耕した農地は他人の土地なのである。
そう、まさしくハリウッドの映画制作における映画監督の弱い立場とまんま重なるのである。女優に手を出すは、金で操ろうとするは、そんでもって作品のファイナルカット権は決して手放さないハリウッドと、仕返しに○○○カットされる大地主シンケルが見事に重なるのだ。そんな“嫌な奴”らを、自分の代わりに“デンマークの至宝”マッツにこてんぱんにやっつけてもらった映画なのだろう。
どおりで監督インタビューの中で、ハリウッドやアメリカに対する怨み節がやたらと多かったわけだ。そんなハリウッドをほっぽり出してホームグラウンドにもどってきたニコライ・アーセルは“オスカー監督”という肩書よりも、撮りたい映画を撮れる目の前の幸せに、きっと気づいたにちがいない。ラスト、史実とは異なるケーレン大尉の意外な行動は、まさにそのデンマーク人監督の願望表現だったのだろう。