「恐ろしく難解、かつハイスピードな社会派」オッペンハイマー fujitaka1217さんの映画レビュー(感想・評価)
恐ろしく難解、かつハイスピードな社会派
ここまでスピード感のある社会派の作品を観たことがない。
恐ろしいスピードで描かれるオッペンハイマーの原爆製作までの道程と、その後の顛末。
大前提として、オッペンハイマーが原爆製作後に罪悪感を抱えていた、という心象があって成立している。
原爆製作は科学者として、他国の先を行きたい、と思って突き進んだ結果であると。
先を見る、ということができていなかった彼は、原爆の成果から水爆は作ってはいけないと判断していたと。
ドイツやソ連といった明確な敵国が存在していたからこその軍拡だが、日本はそこにたまたまいた、厄介な島国に過ぎない。
原爆を落とさずして日本に勝利することはできたのか。
もちろん、勝利はできた。だが米兵の犠牲は増えただろう。圧倒的な軍事力を見せつけるだけなら、近海に落とした上で降伏を促す術もあったのでは、と考えるが、そこは戦争。しっかりと犠牲を産んで、事を納めたわけだ。
後半の裁判のような展開も、何となく分かるが、ほぼ分からない。
役者の芝居と音楽で、引っ張っているにすぎない。この辺りは、ソーシャルネットワークの展開にも似ており、スピード感のある編集で飽きさせずに保たせている。
ロバートダウニーJrが素晴らしいが、なぜ彼を貶めるような流れになってしまったのか、がイマイチ伝わりきらず、ストーリーとしては半煮えな印象。
総じて素晴らしいデキだし、傑作であることに間違いないが、反核ではなく、独りの男の苦悩を描いた作品として描かれていることに、日本人は物足りなさを感じてしまうのだろう。
プロジェクトXではないので、フィクションとして描かれる史実に、足りない描写があるとすればそれは、意図に対して不必要だったからにすぎない。
ちゃんと公開し、正当な広告がうてていれば、日本ではまた違った流れができていたに違いない。
長いが、あっという間。是非多くの日本人に観ていただきたい。何ならアメリカ人と一緒に観て意見交換するのも、楽しいだろうな。