「「我は死神なり、世界の破壊者なり…」プロメテウスの原罪」オッペンハイマー 麻布豆ゴハンさんの映画レビュー(感想・評価)
「我は死神なり、世界の破壊者なり…」プロメテウスの原罪
何と言ったら良いのでしょうか、、核物理学や量子力学などという、もう私たちパンピーには何が判らないかもサッパリ判らない様な知の最先端の領域で、天才科学者の頭脳と魂に、この世界全体がどう映り、どの様に感じながら人生を重ねていったのか、、
そしてそんな特別な次元にある人達の、普通の人々と変わらないパーソナルな葛藤と苦悩、それらを暫しの間、疑似的に追体験する様な感覚に浸れることが出来た印象です。
ほぼ名前しか知らなかった理論物理学の分野の錚々たる科学者たち、アインシュタイン、ニールス・ボーア、エンリコ・フェルミ、アーネスト・ローレンス、イジドール・ラビ、戦後オッペンハイマーと対立する“水爆の父”エドワード・テラー、が等身大の人間として描かれます。
そして物語のもう一人の主人公、核兵器の際限無い開発競争に反対するオッペンハイマー(キリアン・マーフィー)と対立し、個人的な野心や恨みやコンプレックスも相まって博士の人生を潰し葬り去ろうとした、アメリカ原子力委員会委員長ルイス・ストローズ(ロバート•ダウニーJr.)。
物語は戦前戦中のオッペンハイマー博士の視点をカラー、戦後のストローズ長官の視点をモノクロに分け、その二つの視点を目まぐるしく交錯させながら進んでいきます。
オッペンハイマーやアインシュタイン、ニールス・ボーアに代表される科学者たちの多くがプロメテウスの火(核の炎)をこの世界に解き放った事に対する道義的責任「科学者が直面する創造と破壊のジレンマ」や、「知識の追求がもたらす恩恵と危険」に葛藤し苦悩する様に対比させる様に、
政治的現実主義・個人的野心・打算、嫉妬や恨みの感情、これらに突き動かされるストローズ長官やトルーマン大統領を始めとする政治家たち、エドワード・テラー博士ら様々な人々の狡猾な言動や行動が描かれていきます。
最終的には、ある予想外の意外な人物によってストローズ長官の野望は終止符を打たれ、冒頭から随所に出てきて謎となっていたオッペンハイマーとアインシュタイン二人の間に交わされた会話の内容という、
ほぼ作品のテーマであり結論でもある重要な伏線も見事に回収されエンディングを迎えますが、詳細はご自分の目と頭で観て感じて頂けたらと思います。
一見とっつきにくい様でも決して理解不能とか難解な作品ではありません、映画史上に残る様な大傑作である事は間違いないと個人的には強く思いました。
日本が原爆開発に成功していたら、絶対使っていたと、僕も思います。
若者の命を捨て駒にした軍部ですから、躊躇はしなかったでしょうね。
ドイツや日本より先に完成させるまでは、無我夢中だったオッペンハイマーが、原爆実験の爆風を体で感じた後で見せる表情が、プロメテウスを掴んでしまった科学者の苦悩を物語っているように感じました。
共感&コメントありがとうございます。
仰ることは正論だと思います。
太平洋戦争が終結してから70年以上経っても、関係者、関係国の視点を集約した作品ができないことに、戦争の不条理、理不尽を強く感じる次第です。戦争は残酷です。
では、また共感作で。
ー以上ー