「鑑賞後感傷に浸ってもむなしさが残る。」オッペンハイマー umekaoruさんの映画レビュー(感想・評価)
鑑賞後感傷に浸ってもむなしさが残る。
採点の通りとても素晴らしい映画でした。主に興奮させられたところ、映画後半にかけて複雑な気持ちになったことの2つに分けてレビューを書きたいと思います。
前者についてはストーリーの点で自身が工学を大学で学んでいることもあり大変興奮させられた。アインシュタイン、ボーア、(マクスウェルというセリフもあった気がしないこともない)など高校物理にも名を見せる科学者の名前があがり、ほんの70年前までアインシュタインが現実に居たなど想像もできず思わず笑みがこぼれてしまいました。
また近現代ということもあり当時の世界に入り込め、70年前の科学者たちが今につながる科学を歴史背景があるとはいえ、作り上げていったのかと思うと胸が熱くなりました。
回想的な映画の作りになっていったせいか、慣れるまでついていくのにも精一杯でしたが、後半になるにかけオッペンハイマーの微妙な心理変化や政治、当時の歴史背景などが自分の中でまとまっていってとても満足感あふれる映画でした。
後者について、後半の特にトリニティ実験前後にかけては涙がでてきて、考えさせられる内容でした。もしかしたら映画としてのメッセージは人の人生の頂点とその後についてかもしれないですが、日本人バイアス的なもの抱えながら鑑賞してしまいました。
本映画では広島、長崎に投下される直接的にシーンはありませんでしたが、トリニティ実験のような爆弾が70年前、普通に生活する人々の上に降りかかってきたんだと想像するとなんとも言えない気持ちになりました。普通に生活する人々とは当時の人々にとっては自身であり、親であり、友達であり、知り合いであり、本当に回りを歩いている普通の人なのだろうと思います。
もちろん東京大空襲など民間人の被害はありますが、トリニティ実験の映像と、自身の記憶に残る原爆ドームの皮膚がただれた蝋人形とのイメージとが重なり、鬱々とした心苦しい気分でした。
またその後のトリニティ実験成功、広島長崎での成功にかかるアメリカ人の反応は映画が終わった後も考えさせられました。
核抑止で収まる現在、人の命だけは団結して守ろうよという理想論も心をよぎるが、日常生活に置き換えて、そのような誰とでも仲良く、コミュニケーションが取れているような状況が身の回りでも取れていないのに、どうしてその理想論の着地点が考えられようかとむなしさが残りました。もしかしたら、そのように悶々と考え続ける程度が正義であり正しいのかもしれない。
工学者としては、科学者が使用についてどこまで関わるべきかという点にも少し考えさせられました。科学は科学そのものが単純にとても面白いですし、より深く探求しようと時間が進むにつれ発展してしまうものだとは思いますが、IPS細胞にかかる特許などその扱い方については少しは考え続けれたらいいなと思いました。