「好みの分かれるノーラン映画。」オッペンハイマー ジョイ☮ JOY86式。さんの映画レビュー(感想・評価)
好みの分かれるノーラン映画。
人間、オッペンハイマーの罪と罰。
原爆を生み出すことになってしまった彼の半生を主観で描いた極めて個人的な映画。
人類史上最大の悲劇。原爆を産んだ悪魔のような科学者が、実はこんなにも弱々しく、己の行いを恥じていたとは…。
そして、原爆が元々はナチを一掃する為の正義の鉄槌であり。ドイツ降伏後、仮想敵を失ってまさか日本に落とされる事になろうとは。。
オッペンハイマーを軸に、3つの時代を行き来しながら原子爆弾投下とその後の苦悩を描く。
公開前に噂されたような原爆を軽視したり、原爆を肯定するような映画では全くなく。
むしろ、真逆の印象を映画から受けました。
スケールの大きさに対して、実は映画の進行は意外なほどミニマムで、人物同士の会話劇が殆どを占めています。
そしてその会話劇は化学用語が飛び交うような物も多いため、マンハッタン計画の基本的な知識や時代背景への理解が全く無いままで見ると楽しむのが難しいかもしれません。
とはいえ、トリニティ実験で実際に原子爆弾が初めて爆破される前の緊張感は尋常ではなく。
このシーンを見るだけでもスクリーンで鑑賞するだけの価値がありました。
音響も素晴らしく、緊張感の持続に一役買っています。
ただし、個人的にはいくらなんでも長尺過ぎた気がしますし。時代を前後シャッフルした構成は、スリリングさよりも、むしろ難解さを悪戯に増した印象が強く。自伝映画として如何なものかと首を傾げてしまいます。
これまでのノーラン作品のインセプションやダンケルクなどのエンタメ作品からいざ知らず、原爆を扱った自伝映画でこの手法を取り入れたのは悪手に感じました。
更に言うと、時間軸が3つある上に「最も現在に近い時間がモノクロ」というのは不親切この上ない。また、戦後のシーンも長い上に説明も少ないので退屈に感じてしまいました。
扱った題材の大きさと、これを個人目線での心情に乗せて描く点は非常に興味深かったですが。いつものノーラン節が鼻についてしまったというのが正直な感想です。
良い点と悪い点、どちらもはっきりある作品なので、星3.5とします。
とはいえ、日本人としてこの作品をスクリーンで見ない理由はないかと思います。
賛否はともあれ、まずは多くの人にスクリーンで見ていただきたいと思います。
因みに、弟のジョナサン・ノーランが同時期にフォールアウトで核戦争後の世界を描いてるあたりも興味深いあたり。個人的にはこちらの方が割り切ってエンタメしていてツボでした。