「難解」オッペンハイマー だむさんの映画レビュー(感想・評価)
難解
まず、映画を楽しむうえでこういった考えを持ち込まないといけないのは非常に好みではないのだが、私はこの映画に被爆国日本としての感情とか非難は一切無い。というのも、この映画にはその話題はほぼ出てこないからだ。長崎や広島、原爆による死者数も台詞では出てくるが、それらは登場人物に大きな意味をもたらさない。日本を映したシーンは一秒もなかったし、徹底していたと思う。
それでも被爆国日本という視点でどうこう言うのは、現国のテストに数学の回答を書くようなものだと思う。それくらい別の話。
長い上に重い、というのが一番の感想。ふっと集中力が切れたら登場人物の台詞が上滑りしてしまい、なんの話題だったかわからなくなってしまった。特に、政治的司法的駆け引きが続く後半以降はキツかった。予備知識無しに観て理解するのは相当難しいだろう。
赤狩りの時代背景や東西冷戦につながるアメリカとロシア(ソ連)の対立くらいは頭に入れておかないと「なんでこのオッサンたちは狭い部屋でオッピーを追いつめているんだ?」となってしまうだろう。ある意味、客の足切りをしていて、「アカデミー賞作品だから観てみよう」くらいの気持ちで行くと間違いなく返り討ちに遭う。
オッペンハイマーをとにかく複雑な人間として描いているのが良かった。エゴイスト・女ったらし・科学者・愛妻家・天才・人たらし・繊細・日和見主義・・・という人間なら当たり前の複雑さをこれでもかと詰め込んでいる。そら3時間になる。
途中で、オッペンハイマーは誠実だ、と評されるシーンもあったが、そこに捉われていると矛盾しまくって意味が分からなくなる。複雑な人間、というのが監督の描きたい人物像だったと思う。激動の時代に一本筋を通した人間、という事では無い。映画やドラマだとそういう英雄的人物像が好まれるのはわかるが、オッペンハイマーはそうではなかった。
編集の妙だと思ったのは、「連鎖反応」と空のシーンだ。
核兵器が現実味を帯びた時、連鎖反応を起こして一度の爆発で世界を巻き込んでしまうかと危惧された。結果的にはそうはならずに安心したのだが、結果的に「アメリカ以外が核を持つ」という連鎖反応は起こった。
オッペンハイマーの心理描写的映像で、青空の下に雲が広がっている綺麗なカットが度々挿入されていて、ラストのシーンその意味がわかる。地上から放たれた無数の核ミサイルが雲を突き破って天を突く。人間が生み出してしまった核兵器が連鎖反応を起こした結果なのだ、とハッとさせられた。
個人的に好きな映画ではある。けど、面白いかと聞かれるとそうではない。人に勧めたい映画でもない。