「天才オッペンハイマー教授の生活」オッペンハイマー 梨剥く侍さんの映画レビュー(感想・評価)
天才オッペンハイマー教授の生活
題名が「オッペンハイマー」なので、タイトルロールの人物を過不足なく描くのは本道なのかもしれないが、“原爆の父”としての側面だけでなく、男女間の葛藤や共産党との関係などにも結構な尺を使い、結果的に焦点がぼやけた印象は否めない。大部の原作評伝はもちろんそれでいいのだが、映画化にあたってはもっとメリハリをつけて刈り込んだ方が良かったのではないか。
IMAXの映像表現にこだわる監督だが、従来の鬼面人を驚かすスペクタクルシーンは特になく、あまりIMAX効果は感じられなかった。インサートの原子の拡散や光の明滅のイメージもさして功を奏していない。
キリアン・マーフィは腺病質の主人公の資質をよく写してはいたが、少しくネプチューンの名倉潤寄りにも見えた。
原爆実験の成功で手を叩いて歓声を上げる人々を見ていて、想像力というものの重要性をつくづく感じた。自ら返り血を浴びる白兵戦の時代から、地上の人間が見えない9000mの上空から爆弾を落とす時代を経て、今やはるか遠隔地から無人のドローンで攻撃する時代になった。そこに殺され傷つく人々がいることを想像できないと、人道主義など成立しない。さらにインターネットやテレビで異国の戦争を目撃する私たちも然り。
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