「林檎から滴り落ちた毒薬」オッペンハイマー Uさんさんの映画レビュー(感想・評価)
林檎から滴り落ちた毒薬
◉進化を目指してはならない存在
人間は悪魔に唆されて禁忌を破ったのではなくて、破りたい人間の身体から悪魔が現れ出でて囁いたのだ…と言う感覚に捉われた。
抑止力として認めさせるためには、原爆や水爆の力を実戦の結果でライバルたちに示さねばならないと言う決断。そこまでに戦争により数多の同胞の命が失われているとしても、どう考えても悪魔の想念。
とにかく、人類とは絶望的な生き物であると感じさせるのが、この映画のテーマだったと思います。新婚旅行の素晴らしい想い出があるから、京都は候補地から外そうと政府高官がジョークっぽく呟くシーンが真実か、真実ベースの創作かは別にしても、私には強烈で。
◉犯罪的な能天気
10万人の命より1000万人の命を護らねばならないでしょうと、多数の人々が拍手しつつ結論できる社会。それは誤解を恐れずに言うならば、白骨の上に都市を営むことも出来る、能天気な世界かも知れないです。
原水爆開発のプロジェクトから投下まで、紛れなく地獄へと向かう展開であるのに、随所に正義と情熱はともかく、親愛や友情まで生まれて…
トリニティ実験が成功したら、洗濯物をしまえと伝えるよと言う、妻への言葉も凄いと言えば、凄い。その屈託のないこと! その後に日本での本番が待っていた。
全体主義の測り知れないパワーが人々をまるっと呑んで、皆、懐疑心は抱きながらも、もう止められない。仕方ないと喚きながら、絶対に武器は捨てない、兵器庫を閉めない。
◉オッペンハイマーの十字架
人々の話に辟易してきた頃に、話はやっと一人の物理学者の苦悩に絞り込まれた。私は研究者として、量子の在り方・可能性を追求していたのみ、兵器を開発していたつもりはなかったと自分の心に幾度も言い聞かせて、救われようとするオッペンハイマー。それは半分ぐらい身勝手ではあるけれど、その先に背負う重たい十字架が見えるだけに、まだ共感できた。揺れたいなどと口走ったばかりに、大変な役を背負わされて、どんどん翳が増えてく天才量子物理学者。
最終盤に来て、十字架など能天気に投げ捨てた投下国は、共産主義への偏向とロシアへの情報漏洩の問題で、オッペンハイマーの精神を千々に乱して、さぁ次の闘いに向かった訳です。
その時そこにいなくてよかったなどと思わず、どこにいても、命と命を比べない思いで胸を満たしていたいと強く感じさせてくれる、そんな作品でした。
メインキャストもサブのキャストも、理解するのは大変だったけれど、配役の重い軽いを感じさせることなく、迫力そのものの演技だった。
京都は原爆の第一候補地だったと聞いたことがあります。
ただ、文化的な価値のある町だったため、落とすことを避けたとか。
新婚旅行の話は眉唾ですが、似たような会話はされた可能性があるかもしれません。
昔、中国が核実験を大気中で行っていた頃、雨に濡れると髪の毛が抜けるから、雨が降り始めたら必ず傘をさすように言われていました。(子どもって雨に濡れることを厭わない、というか、逆にわざと傘をささずに濡れるのが好きだったりしますよね)
当時は意味不明でしたが、今思うと、「黒い雨」のことだったのかなあ、と思います。
奥さんへの伝言は、その頃の事を思い出しました。
家と実験場は300キロ以上離れていたと記憶していますが、300キロなら放射性物質を含んだ雨が降る可能性は十分にありますからね。
とすれば、オッペンハイマーは原爆実験後の黒い雨に関しても、考えていた可能性もあるのでは、と思いました。(考えすぎかもしれませんが)
コメント・共感ありがとうございます。
正解のないクイズでしたね。
原子爆弾を一番に落としたい・・・そういう魔のパワーに
人間は巻き込まれたのでしょうか?
功を焦る気持ち・・・一番に開発したオッペンハイマー、
投下を決断し命令したトルーマン。
オッペンハイマーは、あれほどの責め苦に苛まれるのに、
メソメソしやがってうざい奴だ!!
と、良心の呵責が微塵も感じられないゲーリー・オールドマン
(彼も気が付かずに観てました。思い起こすと、声が、ゲーリー・オールドマンでしたものね)
仰る通り、ロバートダウニーJr.が、こんなシリアスな演技が
できる人とは思いもしませんでした。終わりの方で、ダウニーJr.がキャスティングされてるのに気が付いて、だな!!と思いました。
Uさんが、《人類とは絶望的な生き物・・・そう感じさせる・・・それがテーマ》
素晴らしいご意見だと思います。
あらゆる歴史の蛮行は今もロシアがイスラエルが、繰り返してますものね。