「プロメテウスの火」オッペンハイマー U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
プロメテウスの火
日本人としては複雑だ。
後半になりHIROSHIMAだNAGASAKIだと英語で発音されるソレらがまるで記号のように聞こえてくる。
アメリカ近代史に明るければ、より深くこの物語を理解できるのかと思われる。そうではない俺には前半の助走がしんどかった。
見終わった今思うと、アレは必要なのだと思える。物理学に心酔し、宇宙の理までも追求できる探究心があるのは賞賛されるべき事だ。
科学の発展に尽力し続けた若者達。国の威信がかかってるわけではないけれど、他国が一歩進めばその先をと対抗心に火がつくのも当然だ。
長い長い時間をかけて「原爆」に辿り着く。
「300年の物理学の辿り着く先が大量殺戮兵器でいいのか?」
…今までの成功を根絶やしにしてもお釣りがくるくらいの台詞である。
当時のオッペンハイマーは、どんな気持ちでこの言葉に向き合うのだろうか?
なんでもそうだけど、ある物は使うよ。
そして、アメリカが開発しなくてもどこかは開発するだろう。
2発の原爆を運び出す車が破滅に向かっていくようで恐ろしかった。
後戻りなんて、とうに出来ないのだ。
現在、世界各国は地球を破壊できる程の核を保有していると聞く。そんなの当時は誰も想像しないだろう。戦争のやり方が明確に変わった分岐点だと思う。
そこから更に発展し、今や大量殺戮兵器は無限に増殖し変異する細菌兵器へと向かってる。
誰かを刺した刃は常に自分にも向けられているのだと、いつになったら気づくのだろう?
気づいた所でやめんわな。
だから人間は愚かなのだから。
ロスアラモスが作られる辺りから妙な焦燥感に襲われる。胸の奥がザラザラする。やめてほしい、引き止めたい。でも、何もできない。
頭脳明晰な若者達が集い、嬉々として世界を破滅に導く兵器の開発に勤しむのだ。
不穏なBGMがずっと鳴ってる。いい仕事しやがる。
軍部からの開発依頼なのは明確で、兵器を作ってる自覚はある。スローガンのように語られるのが「戦争を終わらす為に兵器を作る」だ。
他国を完膚なきまでに叩きのめす。反抗する気が起こらないように徹底的に。
それがアメリカが目指す勝利の形らしい。
白人至上主義にでも裏付けされてんのか?敵は単純に敵であり、それ以外の何者でもないのだろう。
初の原爆実験の描写は戦慄だった。
閃光と共にホワイトアウト、上空何百mにも及ぶ火柱。プロメテウスの火を人類が手にした瞬間だった。
このシーンに至るまでに、オッペンハイマーの葛藤も描かれはするのだけれど、捏造かもしれないので触れないでおく。ただソレを表現するキリアン・マーフィーは素晴らしかった。
8月6日を境に物語は戦後に様変わりする。
オッペンハイマーが糾弾され、策略にハマって同情を誘うような描き方が続く。
ストローズが黒幕でありなんて話にもなるんだけれど、オッペンハイマー第二章かと思う程テーマが違う。
ああ、やっぱ英雄視はしたいんだろうなぁって思う。アメリカを戦勝国にした最大の功労者だもんな。例え世界を道連れに地獄へ引き摺り込んだとしても。
奥様の一言が強烈だった。
「許された気にでもなってるの?どうせ世界は許しちゃくれないわよ。」
上手い台詞だなぁと思う。
そこまでズバッと刺されちゃえば、それ以上言えんもんなぁ。
資本主義の犠牲者的な側面はあるものの、殺戮兵器の生みの親である事は変わらない。
彼らが未来に及ぼした影響は計り知れない。
科学の発展は人類の滅亡へ直結する。
ネットもそうだし、AIもそうなっていくのだろう。戦争は無くならないし、地球の自浄作業だなんて言う輩もいる。
命が死というものに向かう運命があるように、人類にも死という運命があるのだろうなぁ。
いつかはわかんないけど。
1つ思ったのはアインシュタインってあんな身近な時代の人だったんだな。
もっと昔の人だと思ってた。
あの時代、科学の発展って加速的に進んだんだなと思う。自分の学の無さに呆れてしまう…w
コレって作品のレビューになってんのかな?
全編通して不穏なBGMが印象的だった。
◾️追記
ああ、そうだ。
皆様のレビューを読みつつ去来した感情があった。
やるせなさ、だ。
時間は戻らないし、核は誕生してしまった。
人類が人類を破滅に追いやる道具を手にしてしまったのだ。
核の無効化や無害化に科学者達が到達するなら、オッペンハイマーが許されたと思える日も来るのかもしれない。