「長編ノンフィクションのダイジェストみたいな」オッペンハイマー TK_Filmさんの映画レビュー(感想・評価)
長編ノンフィクションのダイジェストみたいな
情報量や必要な背景知識が多すぎて、情報として理解できないところが結構あった。でもオッペンハイマーの気持ちとか人となりはまあまあわかったので、そこまで置いてきぼりにはされなかった。でもそれも自分の情報量や背景知識のおかげかもしれないので、ネットで調べて予習してった方が多分楽しめる。というか史実とか豆知識とか量子力学とか全部知っといた方がいい、というくらい説明の省略が激しい気がするし、そんな楽しみにくい映画を良い作品と呼ぶのには抵抗がある。
一番面白いテーマとしては科学者がどこまで発明に対して責任を持つかということで、オッペンハイマーと原爆に関して言えば人類のためにオッペンハイマーにできたことはもっとあるように思う。というか序盤で「誠実な人(has integrity)」と言われていたけども、原爆投下に関してはそうではなかったことが明らかに描かれていた。とはいえ自分がオッペンハイマーの立場だったらどうするかと考えても、自分の仕事の重要さや政府の力を前にして、たぶんそんなに正しいことはできない気がする。救いとしては彼にも良心の呵責があったことくらいで、原爆も水爆も目的がクソすぎて無意味すぎる。こういう絶望を、この作品が描けていたかはよくわからない。
原作小説はもっと細かいところもゆっくり考えさせてくれるのではないかと想像する(本なので)。原作小説では意義があるエピソードだったかもしれないが、映画では意味不明に感じられたものがあったように思う。男女関係とか文学的な素養とか、オッペンハイマーの人柄の多面性を伝えるつもりなのかもしれないが、最大のテーマとの繋がりからすると結構どうでもいい。他人とちゃんと深く関われる社会性がある一方で、自他ともにその知性を神に重ねるなど、対極的な要素を持った興味深い人柄なのは頭ではわかるというか理知的に伝わってくるのだけど、心理的には全然説得力が無かった。つまりオッペンハイマーが恋人たちを愛したり気遣ったりしてても感情移入できないし、自分のことを神かと思うような場面でも万能感や神秘性や畏れをあまり感じられない。テンポが早すぎるせいなのか、インド古典を読めばいいと思ってるせいなのか…そのくせにメロドラマ的な楽曲の使い方してたり、ちょっと意味わからない。
どうせなら3部作にしたらよかったのではと思う。ケンブリッジからバークレーまでの時代で彼の人となりを深く伝えて、マンハッタン計画開始から原爆投下までで発明のワクワクと絶望をドラマチックに描いて、最後は赤狩りの尋問を受けながら内省を描く、みたいな。ストロースの恨みとかかなりどうでもいい。まあ原作知らないからなんとも言えないが。
この作品を見た人が原爆や兵器開発の「正しさ」を再考するのであれば、良い作品だったと言えるかもしれない。ただ色々とごちゃごちゃしてて飽きて寝る人の方が多いかもしれない。