劇場公開日 2024年3月29日

「ノーランの過去一の熱量」オッペンハイマー TOKIESさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ノーランの過去一の熱量

2024年3月31日
iPhoneアプリから投稿

冒頭にもあるが、
主観パート(核分裂(FISSION))カラー撮影
客観パート(核融合(FUSION))モノクロ撮影
という設定になっている。

物語は、アメリカ原子力委員会によるオッペンハイマーの聴聞会から始まる。ソビエト連邦との冷戦が激化していた当時、アメリカでは「赤狩り」で多くの共産主義者が取り締まりを受けたが、オッペンハイマーもソ連のスパイだと疑われていたためである。オッペンハイマーは原子爆弾の開発・製造を目的とする「マンハッタン計画」を主導し、1945年7月には人類史上初の核実験となった「トリニティ実験」を成功。翌8月、日本の広島・長崎に2発の原子爆弾が投下される。しかし、日本の惨劇を目の当たりにしたオッペンハイマーは、戦後に態度を一変させ、水素爆弾の開発に反対したことで立場が危うくなり、聴聞会が開かれ、機密保持許可を剥奪される。というのがざっくりとしたあらすじとなるが、
ストローズの公聴会(白黒)
オッペンハイマーの聴聞会
オッペンハイマーの生涯
がチャンポンで描かれ、登場人物の相関関係も分からないまま進むし、会話も独特なので、冒頭の90分で集中力が途切れてしまったが、トリニティ実験あたりから、また緊張感が高まり、聴聞会からストローズの公聴会へと怒涛のラストを迎える熱量は圧巻である。

落とした側と落とされた側で感じ方は180度異なるだろうが、故意に2度も落としたことに義憤の念を感じざるえなかった。原爆の爆発は、映画のようなあんなちっぽけな規模ではない。都市全体をキノコ雲が覆い都市が一瞬にして消え去る威力を持つものである。ただノーランは少なくとも原爆を落としたアメリカ側の倫理観はどうだったかを国民に問うているように感じるし、オッペンハイマーの苦悩———民間人を20万以上殺す兵器を開発してしまったことへの責任と原爆行使の決定権を持てないことへのやるせなさを丁寧に描いていたと思う。

オッペンハイマーが原爆をつくらなければソ連に覇権を握られていたかもしれないので、アメリカの国益を守るためにも開発はマストだったと思う。ただ原爆や水爆は人類に対してはやはり使ってはならないと改めて感じる価値ある一作であった。

またゴランソンのトラックはTENETに続き傑作続きである。
普段主役を張る役者がゴロゴロとチョイ役で出てくるのも驚きだ。

TOKIES