「「原爆を生み出した苦しみ」を体験する映画」オッペンハイマー みなもとさんの映画レビュー(感想・評価)
「原爆を生み出した苦しみ」を体験する映画
ノーラン監督の作品は欠かさず見ているが、本作品は"リアルに"その人を追体験するという、とてもチャレンジングで、これまでのジャンルとはまた違った取り組みだったと思う。(+18のセンシティブな場面含めて)
インセプションやテネットのようなアクション映画を求めてしまうと、拍子抜けすることに注意が必要。
この作品のテーマとして、「原爆を生み出した苦しみ」を一つ目にあげさるをえない。
某番組のインタビューで、ノーラン監督は「自分の息子が戦争(原爆?)のことに興味がないのがショックだった」と語っていたが、オッペンハイマーを追体験する本作品により、ノーラン監督がやりたかったことは果たせたのではないかと思う。
日本人としてあの時代の記憶というものは、原爆を落とされた被害者の立場だったが、原爆を落とす加害者という側面で理解することはなかなか無かったと思う。
アメリカの世論的には当然、英雄ではあるが同時に大量殺戮を図ってしまったという後悔の念、表裏一体の感情。
他のレビューやインタビューでは、もっと悲惨さを表現しろという声もあったが、映画として最大限ここは表現できていたと思う。
それを超えて核戦争という「パンドラの箱」を開けてしまった苦悩がとても良く表現されている。
二つ目のテーマとして「オッペンハイマー達の名誉挽回」というものがある。
国家の為に尽くしたはずが、逆に国家反逆罪になぜ問われてしまったのか。
様々な陰謀が渦めく中で、発明に罪はないという事を言いたかったと思う。これは戦争云々の議論とは切り離されるべきものであること。
テーマとしての明確さは過去作一だが、作品として純粋に楽しめたかというのは微妙なところ。というか楽しむものではないのかな。と感じた。
公聴会のシーンなどは字幕版ではなかなか理解が追いつかず難しい場面が続いた。何度か見返したら気づける部分もありそうだが、一回の視聴では理解できず。
これまでのノーラン監督の作品は、理解できなくても楽しめたが、残念ながら本作はそういうコンセプトのものではなさそうだ。
作品の展開として、仲間集めをして、強力なキーマンの助言を受けて、プロジェクトを成功させるという、インセプションと同じようなワクワク展開である事はノーラン節が効いてて良かったなと思う。
これまでの作品では、キーマンとしてマイケルケインが務めていたところを、ケネス・ブラナーが見事に演じられていたところには感銘を受けた。重要なキーワードも本作では彼が語っている。
キリアンマーフィーもそうだし、これからも演者側の活躍も含めて作品を楽しみにしたい。