「科学者(人間)としての罪」オッペンハイマー シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)
科学者(人間)としての罪
相変わらずなのですが、ちょっと困った作品ですねぇ。(作品の質の話ではありません)
これは前作の『テネット』の感想でも書いたのですが、本作を1回見ただけでは(理解できないというよりも)大半の人は作品を整理し切れないという意味での困った作品なのです。
本作の場合はいつもの様にジャンルがややこしいSFではないのにも関わらず初見では混乱してしまいました。
歴史モノなのでそれに疎かったり、登場人物の多さや物語の過去パート・マンハッタン計画パート・戦後の公聴会と聴聞会パート(モノクロ)と三つの時代を平行に取り混ぜながら物語が進み整理するどころか更に観客の頭を混乱させる。
いや大筋は分かるのだが、どうしてももどかしさが残ってしまう感覚で、整理しきれない隙間を何かで埋めたくなってしまう。
なので本作の場合は(というかノーラン作品の場合は)、予習というか事前情報はどれだけ入れておいても、鑑賞の妨げにはならないと思います。
だから、ノーラン作品の場合は真面目な観客ほどリピーターになる場合が多いのでしょうね。
でも、私の場合は知識や情報系に関しては不真面目な観客なので、直ぐに見返す事はしません。(暫く時間を空けてからもう一度は見返してしまうと思いますが…)
私が直ぐに見返したくなるケースは、例えば『デューン/砂の惑星 PART2』の様な映像面での欠落を感じた場合のみの様な気がします。
やはり私は映画の場合、物語よりも映像重視派なのかも知れません。でも今回はIMAXで見る事はないと思います(苦笑)
ここからが本編の私の感想になりますが、考えようによってはネタバレになるので、ご注意を…
私が思うに、本作はオッペンハイマー自身の実態というより科学者全般についての話になるかもしれませんが、私がまず印象に残ったのはマンハッタン計画での原爆実験の前のオッペンハイマーとマット・デイモン演じる軍人との会話の中で、実験前の結果予想として科学者の立場として計算通りになる確率について100%ではないと主張している。
ひょっとして原子核が起こす核分裂反応がずっと続くと地球そのものが燃えてしまうというイメージに苛まれいた。軍人側はその可能性はゼロという答えを求めていたが科学者の立場としてそれを回答しなかった。であるのに科学者も軍人もその計画を実行した。私はそこに一番深刻な人間の問題があるように思います。
次に実験後の様子はまるでアポロが月面に到着した時の様な歓声が沸き上がったシーンも非常に怖かったです。
この二点についてだけでも、科学者以前の人間の怖さを感じさせられ、戦後の顛末については、人間社会の永遠に変わらぬ茶番劇として皮肉をこめて作られていた感じがしました。
結局、神は地球をも破壊できる生物を誕生させてしまい、それを知った人間はそのことに目隠ししながらも日々恐怖を感じて生きて行かなければならなくなってしまったというお話だった様に思えました。