「反核や苦悩が主題ではないオッペンハイマーの伝記映画」オッペンハイマー ゆいさんの映画レビュー(感想・評価)
反核や苦悩が主題ではないオッペンハイマーの伝記映画
クリストファー・ノーランお得意(?)の時間軸がコロコロ変わる演出。
前触れなく、過去と現在が入れ替わるのでとてもわかりにくい。
きっとアメリカ人なら調度品などである程度、現在か過去か把握できる(日本人が昭和の映像だとわかるように)のだろうが、正直、日本人には辛かった。
公聴会で証言した人たちとオッペンハイマーの過去のやり取りを描いておく必要はあっただろうから仕方がないが、登場人物が多すぎて混乱に拍車をかける。
私の頭では一度観ただけでは相関図の理解が追い付かなかった。
何度か観れば『過去の伏線』なども見えてきて感想が違ってくるのかもしれない。
結局、オッペンハイマーが何を考えて原爆を作ったか、原爆が日本に落とされてどう感じたかには触れる程度で明確には描かれない。
あくまで私見だが、同じドイツ系ユダヤ人でノーベル賞まで取った敬愛していただろう、アインシュタインがマンハッタン計画から外されて『アルベルトの理諭を形にしたい』という気持ちはあったのかもしれないなと思う。
赤狩りに関してはオッペンハイマーがどんな活動をしていたかわからないが、時代もあったろうからな。
原爆投下後、アインシュタインとオッペンハイマーに反核(水爆開発反対)の姿勢を取られたことはアメリカにとって都合が悪かったのかもしれない。
反核(核の怖ろしさを描いた)映画ではないし、開発者の苦悩が主題でもない。
あくまでオッペンハイマーがどういう経緯で核開発に関わり、なぜ、偉大な科学者が失脚に追い込まれたかを描いた映画。
むしろ、原爆開発より『赤狩り批判』の方が強いかもしれない。
3時間の大作だが、飽きさせない。
役者たちの演技も上手い。
映画全体の出来は素晴らしく、アカデミー賞を取って当然だろうね。
ただ、内容(ストーリー)がな。
個人的には興味深い話で観ごたえがあったが、興味の薄い人には『難解な映画』としか思えないかもしれない。