「We got a Sun」オッペンハイマー マスゾーさんの映画レビュー(感想・評価)
We got a Sun
量子力学
分子や原子それらを構成する電子などを対象とし
その物理現象を研究する学問
・・とこう書くともう訳が分からんが
物理学はニュートンの運動方程式
みたいな決定論(こーしたらこーなる)
という考え方で20世紀初頭までは当たり前
だったのだが熱量や電磁波・粒子といった
要素の発見とともに予測不能な運動が増えてきて
より推測するという分野が生まれ
重視されるようになった
今では現代物理学の根幹をなす分野である
今作は日本では太平洋戦争末期
広島と長崎に投下された原子爆弾を生み出し
原爆の父と呼ばれたロバート・オッペンハイマー
の半生をクリストファー・ノーランが描いた
氏の作品初の伝記的作品
どうだったか
当初は日本人がこんな原爆賛美の映画を
観てはいけないとか好き放題言われ
よくわからんミームも騒ぎになったが
当時から思っていたがじつにくだらない
観る人々が判断することでそんな
くだらないバカの無駄な検閲はいらない
「そこをどけ」
と心の底から思えるほどの
実直に当時のアメリカの核兵器開発に
まつわる側面とそれを主導した
オッペンハイマーの側面と内面と外面を
描いた素晴らしい作品だったと思います
テーマ的には掘り込むともうわけがわからない
と感じてしまいますがノーラン監督が
これまでも触れてきた
「インターステラー」「テネット」等で
触ってきたわけわからなげなエッセンスを
と思えば不思議なほど
わかりやすかった気がします
映画は初老に差し掛かり大戦後の
水爆実験に異を唱えるオッペンハイマーが
米原子力委員会委員長ルイス・ストローズに
告発され国家の反逆者か否かと言う公聴会で
詰問を受けるところから始まり
回想的に話が進んでいきます
オッペンハイマー(以下オッピー)はユダヤの家系でNY生まれ
頭脳は極めて高くハーバード大を首席で卒業
英ケンブリッジ大に留学しニールス・ボーアに
実験を伴う科学から理論物理学をすすめられ
独ゲッティンゲン大学で博士号を取得
当初はブラックホール研究など当時では
誰も講義を聞きにこない(来れない)ほどの
先進的な研究でしたが徐々に講義を受ける
学生が増えていきます
オッピーは大変「変わり者」
いわゆるノンポリで弟フランクが加入していた
共産主義団体でも何でも関係なく付き合い
どんな女性とも付き合います
(これが後々色々物議をかもすのですが)
ところが当時のアメリカは知っての通り
第二次大戦参戦中
そんなオッピーもとへある日
「マンハッタン計画」なる計画を指揮する
軍人レスリー・グローヴス准将がやってきて
君の理論物理学を国家に活かす時が来た
と原子爆弾開発計画のリーダーを
打診に来ます
オッピーは爆弾?と最初は( ゚д゚)
としていましたがグローヴスは
ドイツのナチス政権が開発している
らしい爆弾について尋ねると
オッピーは「ドイツの量子力学研究は
アメリカより断然進んでいるけど
研究者がユダヤ系だから絶対ナチスは
冷遇して進まない」と漠然と答えます
(この漠然とした物言いがオッピーの特徴)
そこでグローヴスは我々が先んじて
原子爆弾を開発すれば戦争を早く
終わらせられるとオッピーをたきつけます
オッピーは刺激を受けこれを
「理論」と「実践」の機会と受け取り
アメリカ中の資源や調査・解析を
鉄道で繋げる中間点に町(研究所)
を作りこれを実現できると提唱すると
グローヴスはオッピーを「変なヤツ」だと
訝しみつつ一任しその中間点
ホントにアメリカのど真ん中
ニューメキシコ州ロスアラモスに
街が作られます
これが有名な「ロスアラモス研究所」
となります
グローヴスとオッピーはアメリカ中の
物理学研究者にこの計画への参加を
呼びかけ家族とともに移住させますが
中には人々を殺す爆弾を作るなんて
と参加を拒否する科学者ももちろん
いますが
「平和のために必要なこと」
「作るからと言って使うのとは別だ」
と上手に説き伏せてしまいます
かくしてロスアラモスには街が出来
3年で20億ドルを費やした原爆開発計画
が始まります
ロスアラモスではこだわりのない
オッピーが集会を開いたり
研究者の嫁を働かせたりしており
グローヴスはこれでは当然
機密が守られないと激怒しますが
オッピーのノリで進んでいきます
当然中では研究者同士の衝突もあります
ウラン核分裂より三重水素の分裂での
爆弾いわゆる「水爆」をただ一人
提唱するエドワード・テラー
(戦後の水爆開発の第一人者)
らが衝突し出て行こうとしますが
オッピーは独特のキャラクターで
うまくまとめてしまいます
そして研究が進んだ1944年
ドイツが降伏しナチスが崩壊
これで原子爆弾を作る必要がなくなった
じゃないかとロスアラモスの
研究者たちは喜びますがオッピーは
「まだ日本が降伏していない」
「ソ連も開発しているかもしれない」と
原爆開発の続行を訴え研究者も
乗っかってしまいます
もはや「オッピー教」なのです
そして1945年当時のトルーマン大統領は
日本への原爆投下を示唆しロスアラモスに
原子爆弾実験の成果を求め
ついに7月に人類初の核実験
「トリニティ実験」が実行
この時点でもなお
核分裂が大気と触れた時に
連鎖反応して地球上全てが爆発して
しまうのではないかという懸念も
まだ持っているレベルでの実験
結果は見事成功しますがオッピーは
その火柱の強大な破壊力に
言葉を失います
言われたことはやった
実験も成功した
そしてロスアラモスから
「二つの大きな木箱」が運ばれて
いくのを虚ろなまま見つめるオッピー
大統領に面会を求める申請を
グローヴスに頼みましたが
その機会は訪れることなく
その1月後に
広島と長崎に原子爆弾が投下
そして終戦を迎えました
この部分はビジュアル的な
シーンもなくグローヴスが
電話で知らせるのみです
オッピーは戦争を終わらせた
英雄かのように扱われますが
ここでオッピーはロスアラモスで
作られたものがどう使われたか
を痛感することになります
日本人からすれば大変複雑な
気持ちになります
怒りも感じる人はいるでしょう
よく「作るから使いたくなる」
といった批判をする人がいますが
「作る人」と「使う人」は違うのです
トルーマン大統領と面会した時のシーン
オッピーはソ連の脅威はわかっている
がロスアラモス研究所は閉鎖するべき
と漠然と言ってしまいます
国防長官と大統領は
ソ連が脅威ならむしろロスアラモスを
強化しなければいけないだろうと
たしなめます
そりゃ国防的には後者が正しく
なってしまい
国家予算で原爆を作り上げた
オッピーの発言は矛盾してしまいます
科学者が「理論」と「実践」だと思っている
ものは「理論」と「現実」に降りて来る
のだというのがノーラン監督が
伝えたかったやるせない
テーマなのかなと
思うところです
3年で20億ドルが費やされた
理由はアメリカにとっては
戦争に勝つため・戦後の主導権を
ソ連に上回って握るためなのです
そりゃそうです
誰も詳しく分からないものに
予算は簡単につきません
(つくバカみたいな国もあるけど)
かくして核兵器の恐ろしさを
知ることになったオッピー
戦後は功績を称えられ原子力研究所の
所長をアインシュタインにも
断られたストローズに打診されますが
前述のとおり一貫して
水爆等の開発には反対方針
このつかみどころのなさに
プライドを砕かれた
ストローズはオッピーの名誉を
突き落とす工作を仕掛けます
というのが回想の間に挟まれて
いきます
急に取り調べで全裸になって
愛人とまぐわうシーンになったり
してるのがIMAXGTで大映しに
なったのはなんか笑って
しまいましたが
それくらい「漠然と」話して
しまう性格なんでしょうね
まあこれが災いして結局
ロスアラモスにはソ連の
スパイが入り込んでたし
それなりに疑惑もかけられる
ハメになったのですが
参考人の妻キャサリンの
気丈な姿勢も手伝って
結局仕組んだはずの公聴会でも
オッピーが厳しく裁かれることは
ありませんでした
ラストはストローズがオッピーに
私怨を抱くきっかけになった
オッピーがアインシュタインと
話した途端ストローズに
口も利かなくなった瞬間
アレは何を言ったのか?
「世界は破壊された」
米ソは核開発競争によって
相互確証破壊などどんどん
冷戦へと突入していくのです
今では北朝鮮が核開発を盾に
ついにソ連より長く続く国家に
なってしまいました
ラストのオッピーの虚ろな顔
彼は太陽をつかんでしまった
その太陽はまばゆい光でもあり
その裏に大きな闇を作ったのです
理論物理学では予測しきれなかった
現実です
観客は常にオッペンハイマーの
人どなりや性格に移入出来ぬまま
話は終わっていきます
ご都合的でなく天才科学者を
通じて人類全体が手にした物
手に入れてしまった物という
受け取り方をしました
オッピーは
誰かであって誰でもない
京都大学の学長が少し前に
「戦争に加担する学問の研究はしない」
みたいなことを言いました
これには大変呆れました
学問の前に思想があるなんて
もうそんなものは学問ではないでしょう
またかつて某悪夢の政権の
バカ政治家が事業仕分けとやらで
スパコン開発が世界2位だった
点に「2位ではダメなのでしょうか」
なんて言い放ったことがありましたね
研究は突き進むべきですが
予算を出す側がこういうバカばっかり
なのが「現実」です
そういう意味では戦中という極限状態が
生み出してしまった原子爆弾と言うものが
意味するものは「叡智」であり「宿題」
であり「宿命」なのかもしれません
そして人類が迎える「運命」は果たして
アインシュタインの名言で
「第三次大戦はどんな武器が
使われるかわからないが
第四次大戦は石っころと木の棒で
人類は戦っているだろう」
というのがあります
そうならないように
していかなければなりませんが・・
キャスティングも文句のつけようがなく
(そういえばマイケル・ケイン出てなかったな)
「必ず自分の目で見て思って」
まさしく必見の大作です
180分?
自分一番デカいバケツみたいなコーラ
買って持ち込みましたがトイレ忘れるくらい
のめり込みましたから問題なし!
あっちゅーま