「令和に響く手塚メッセージ」火の鳥 エデンの花 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
令和に響く手塚メッセージ
マンガの神様・手塚治虫先生がライフワークとして取り組んだ名作「火の鳥」ですが、これまでつまみ食い的にしか読んだことがありません。それでも、そのスケールの大きさに圧倒され、引き込まれた記憶があります。本作はその「望郷編」の劇場アニメ化作品ということで、原作未読ながら勝手に期待して公開初日に鑑賞してきました。
ストーリーは、訳あって地球を離れて辺境惑星エデンに降り立つも、恋人のジョージを事故で亡くしてしまったロミが、息子を将来一人ぼっちにさせないためにコールドスリープに入るが、機械の故障で1300年の時が過ぎ、エデンには多くの新人類が暮らす都市が誕生していたが、しだいに望郷の念が募り、その思いを知った少年コムとともに地球をめざすというもの。
鑑賞後にもっとも印象に残ったのは人間の愚かさです。人がもつさまざまな欲望が地球を蝕み、エデンに芽生えた文明をも瞬く間に滅ぼしていく様が、とても悲しかったです。原作未読のため、原作との差異はわかりませんが、手塚治虫先生が作品に込めた思いは、本作から伝わってくるものと同じではないでしょうか。原作発表から40年余、いまだに世界の各地で争いが続いています。世界の情勢は何一つ変わっていない、むしろますます悪い方向に転がり落ち続けているのではないでしょうか。人類は滅亡するまで争いを止められない愚かな存在だと思いたくはありません。
若返ったロミとムーピーがもう一度築くであろう新たなエデンは、今度こそ平和で幸せな世界となるでしょう。しかし、永遠の命を持たない私たちは、与えられた短い命の間にそれを成し遂げなければなりません。そのためには、自分も含めて全ての命を慈しむことが大切だと思います。それなのに、そんな単純なことができないのがもどかしいです。壮大な宇宙の中では、一瞬とも言える人間の命、そのわずかな煌めきを互いに慈しみあってほしい、そんなシンプルなメッセージが心に響きます。
映像的には、手塚作品らしい懐かしい雰囲気を十分に残しつつ、全体的に洗練されていると感じます。キャラデザも、決して今時のものではありませんが、かといって原作そのままでもなく、バランスのとれた造形になっていると思います。手塚ワールドを堪能できる仕上がりなっていること間違いなしです。本作に触れ、改めて火の鳥を読破したくなりました。
キャストは、宮沢りえさん、窪塚洋介さん、吉田帆乃華さん、イッセー尾形さんらです。劇場アニメにありがちなタレント起用にはうんざりですが、宮沢りえさんは健闘していたと思います。