劇場公開日 2024年11月30日

「音は現実、映像は虚構」ニッツ・アイランド 非人間のレポート 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5音は現実、映像は虚構

2024年12月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

オープンワールド世界のドキュメンタリー映画という点で、本作は「実写か、アニメーションか」という議論を巻き起こした作品だ。写される映像は全て、ゲーム世界の空間であり、生身の人物はいない。しかし、ゲーム映像の背後には、生身の人間が存在しているという点では、まぎれもなく現実でもある。虚構の存在しか画面には映っていないが、音は本物であるという二重性(飼ってる犬が吠えたりする音などが混入する)が映画とは何かを考える上で非常に興味深いサンプルとなっている。
「Day Z」というゲームで人間狩りに興じる一群を主に追いかけているのだが、その狂気性を感じさせつつも、ゲームを離れれば一般人であることも示唆される。中には、ヴィ―ガンの女性もいたりする。現実では、動物を殺したくないというヴィ―ガン思想を持ちながら、ゲームでは人を殺すことを娯楽として楽しむ二重性が人間の奥深さを表していて興味深い。
少し不満があるとすれば、この映画の制作者たちはゲームで過ごすうちに何か心の変化はあったのかどうかは描かれないところだ。900時間以上を「Day Z」で過ごして、自身のリアリティに特に変化は生じなかったのだろうか。あるいはゲーム内で人を撃ったりしなかったのだろうか。多少、取材対象者と喋るシーンはあるが、基本的に制作者たちはずっと客観的立場を貫いている。しかし、ゲームにログインしているからには、自らの主体的な感覚も盛り込んでも面白かったんじゃないか。

杉本穂高