「◇ナポレオンは3時間しか眠らない」ナポレオン 私の右手は左利きさんの映画レビュー(感想・評価)
◇ナポレオンは3時間しか眠らない
歴史上の人物を巨匠リドリー・スコット監督が名優ホアキン・フェニックスと組んで描き上げます。観る前からの期待値が高過ぎて、返って心配でもありましたが、スケールの大きさも細部の緻密さも起伏に富んだ物語性も全てにおいて完成度の高い作品でした。
物語はマリーアントワネットの断頭場面から始まります。処刑現場の観衆に掲げられる首、民衆の不満を鎮めるための恐ろしいショーです。そんなフランス革命後の混乱時に彗星の如く登場したのがナポレオンです。
1804-1814 第一帝政は、ヨーロッパ大陸をナポレオンの軍事力でフランスが牛耳った稀な時代です。私にとってのフランスという国のイメージは、斜に構えた頭でっかちな国民性です。洗練されていることが一義的で泥臭いことを嫌うような姿勢。
一方で、戦術家ナポレオンの姿は、あまりにも愚直で幼ささえ感じます。軍事力はあっても政治力に劣るような弱さ。それは女性の愛し方にも現れているようで、彼が女性に求めているのは母性のみのように感じました。戦いに疲れた自分を慰めてくれる母性と自分の子孫を残してくれる母性。彼の性格は単調過ぎる性行場面に、象徴的に表現されています。
ナポレオンの単純さを引き立てるのがジョセフィーヌです。前半は浮気妻として、後半は究極の母性🤱として、強かに生きる女性。永遠の少年ナポレオンの勝運を支えているように描かれています。
ナポレオンは3時間しか眠らなかったという逸話があります。ショートスリーパーには過大なストレスが伴うものとするならば、軍師としてのストレス以上にジョセフィーヌへの愛情の複雑さが彼の精神にさざなみを立てていたのかもしれません。壮大な歴史絵巻の裏側に、ロマンを追い求め続ける「男の単純さ」という普遍的なテーマが垣間見える物語でした。