「映像はスゴい。でもエモーションが無い。」ナポレオン つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
映像はスゴい。でもエモーションが無い。
「地獄の黙示録」や「乱」のような、実写ならではの迫力ある戦闘シーンの数々は圧倒的で、これは映画館で観なければ味わえないスケール感だと思う。
が、一方で恐怖も高揚もない、淡々とした映画であることもまた事実だ。
監督インタビューによると、大軍を率いて敵国の首都を目指し遠征に出かける男が、妻がパリで何をしているのかということに心乱される、その二面性に心惹かれた。との事だったが、そこでリドリー・スコット自身はナポレオンの中に何を見たのだろうか。
ナポレオンの類まれなる戦術家という一面が映画の一本目の柱であること、そしてジョセフィーヌとのシンプルに「愛」と呼ぶには些か奇妙な結束感、というのが映画を支える2つめの柱であるのは間違いないが、この2つが撚り合って出来たものに、肝心の魂みたいなものが乗ってないのだ。
最初に戦闘シーンの圧巻さについて書いたが、戴冠式の再現度の高さや、ナポレオンを演じるホアキン・フェニックスの表情の捉え方など、映像の力についてはこれ以上ない素晴らしさだ。
なのに、全く胸がときめかない。
「英雄か、悪魔か」という問いのようなキャッチコピーに対し、「いや、ただの人間だ」というのがリドリー・スコットの描きたかったナポレオン像なのだろうか?
小学生の頃に父の蔵書「男の肖像(著・塩野七生)」を読んだ。カバーは「サン=ベルナール峠を越えるボナパルト」で、本書の中にもナポレオンは取り上げられているのだが、内容についてあまり覚えていない。
どうもこの頃から私自身がナポレオンに対してあまりにも興味がなかったらしく、巨匠リドリー・スコットをもってしても、やっぱりナポレオンに対して情も興味も湧かないという、決定的な問題点があるのかもしれない。
監督は観た人それぞれに「ナポレオンとはどんな人物だったのか」を感じ、考えて欲しくて、あえて起伏を抑えたストーリーテリングを仕掛けているのかもしれないが、彼の半生を詰めに詰めた2時間半はあまりにも呆気なく感じられてしまった。