ほかげのレビュー・感想・評価
全26件中、21~26件目を表示
夜の家族
この作品との直接的な関係はないが、今年公開された『ゴジラ マイナスワン』との繋がりを感じさせられた。
戦後のどん底から復興を遂げゼロに戻った日本が、ゴジラによって再びマイナスへと叩き落される。
あの映画でも自分の中の戦争が終わらず、苦しみ続ける人々の姿が描かれていたが、この作品で描かれる戦争の後遺症はさらに生々しい。
日本全土が復興していく裏では、戦争によって受けた心の傷により、マイナスのまま立ち直ることが出来ずに打ち捨てられた人々がいたのだ。
まずは戦争により家族を失い、売春を斡旋されることで無気力に日々を生きる一人の女。
彼女のもとにかっぱらいをしながら野良犬のように生きる一人の坊やが転がり込む。
そして金を作ることが出来ないのに、一人の復員兵の男も毎晩彼女のもとを訪れる。
いつしか三人は夜になると集まる疑似家族になる。
復員兵の男はかつて教師だったらしく、坊やに勉強を教える。
その姿は実直な若手教師そのものだ。
しかし男は昼になると働くこともせずに抜け殻のように蹲っているらしい。
夜、女と坊やのもとを訪れる時だけ人間の生活に戻ることが出来る。
彼が心に受けた傷は重大だ。
大きな音がすると過敏に反応し、恐怖のあまり理性を失ってしまう。
そしてついに彼は二人に暴力を振るってしまう。
坊やは女を助けるために銃を男の頭に突きつける。
坊やが誰にも見せずに肌身離さず持ち歩いていたものが銃であったことに脅威を感じる。
男は何処へと消えていくが、女は坊やと本当の家族になることを願う。
夜だけの家族という形は変わらないが、彼女の坊やへの愛は日増しに強くなっていく。
母と子という関係よりも、まるで男女の関係のように見える二人の姿が危うい。
坊やはなかなか普通の仕事にありつくことが出来ずに、危険な仕事に手を出してしまう。
それを女は必死で咎める。
坊やはある親切な男から仕事をもらったと女に報告するが、その仕事に銃が必要だと知り、女はすぐに断るようにと鬼のような形相で坊やに言い放つ。
そして坊やが再び戻った時、もうこれっきりであると縁を切ってしまう。
坊やは結局仕事を与えてくれたアキモトという男と行動を共にする。
仕事の内容は分からないが、アキモトの様子から真っ当な仕事ではないことが分かる。
そして彼自身が自分の果たそうとしていることに踏ん切りがつかないでいるらしい。
この映画の中では誰もが戦争による後遺症に苦しめられている。
坊やが寝ている時にうなされる姿は尋常ではない。
女は襖の向こうに何かを隠しているし、アキモトもまた夜になると坊やと同じように夢にうなされ、子供のようにすすり泣く。
うまく復興の波に乗れた者に対して、あまりにも彼らの生き方は惨めだ。
この映画の中で、明日への光を感じさせるのは坊やだけだ。
映画の中で銃声が何度も聞こえるが、終盤になってその意味が分かるような気がした。
銃声は戦争によって心を壊された者が、自らの戦争を終わらせるために放つ音なのだろう。
その中にはマイナスのまま立ち直れずに、自ら命を断った者もいるだろう。
あまりにも哀しい余韻を残す作品だ。
塚本晋也監督の作品は本当に画面から放たれるエネルギー量が凄まじい。
これこそ反戦映画といえる心に重くのしかかる傑作だった。
こんなに優しい映画もない。
こんなに優しい映画もない。
戦後の苦しい世の中を生き抜く人たちの姿は、
同時に現在を生きる自分たちと重ね合わせて見ることも出来て。
全てを失うことがあっても、
強く生きて、それでもあきらめないでと。
最後闇市に銃声が鳴り響いて、
暴力に争いは尽きることはないだろうけど、
それでも生きていくんだって。
「戦争は終わったんだ」って、
空に手をかざす森山未來の姿が、
また哀しくてたまらない。
加害者側の恐ろしさ
終戦後の闇市が舞台。
戦争という絶望と闇が精神構造を蝕み
極限で肉体的にフラフラで生きる姿を
描いている。
人間が巻き起こした暴挙、戦争をビシビシと
画面から伝えてくる。
趣里さんの暗闇での瞳。そしてあの少年を
助ける為の叫びは印象的。
森山未來さんの演技も。
権力者からの目線と一般の人々からの
目線の温度差を映像を忌ましめるように観いった。加害者側の恐ろしさを伝えたかったのだろう。
あの少年が投げ飛ばされても器を
洗いに向かうシーンが目に焼き付く。
強く生きて欲しい。
地獄の先の地獄、絆とも呼べない絆
少年を中心に、趣里パートと森山未來パートで大きく分かれている。
趣里パートは、全編彼女の店の中だけで展開される。
少年や復員兵と出会い、疑似家族のような関係を築くうちに、機械のようだった趣里が“おかん”の顔を見せる。
それが単なる母性だけからのものでないことが後に明かされるが、一発の銃声が崩壊を招く。
ここで匂わされた復員兵の“トラウマ”が、森山未來パートに活きてくるのが上手い。
復員兵の過去を語らず、ここから派生して想像させるのだ。
こちらのパートは屋外が中心だが、それでも陰影の濃い画面が目立つ。
ただ、この作品の“闇”は、他でよく見られる単に見づらく分かりづらいだけのそれとは全く違う。
絶妙に表情を隠し、そしてそれ故に感情が浮かび上がるようにつくられている。
ダンスも得意とする森山未來はもとより、腕だけで魅せたタイトルバックなど趣里の肉体表現もまた素晴らしい。
子役も表情芝居が抜群で、台詞はやや(仕事内容のところなど特に)聞き取りづらいが、補って余りある。
最後の銃声や彼らのその後など、空白の残し方も適切だったと思う。
戦争を描かず戦争の悲惨さを描いている点も含め、近年稀に見るほど映画らしい映画でした。
疲れから瞬間的な寝落ちが何度かあり、その繊細な表現を堪能しきれなかったことが悔やまれる。
是非、万全のコンディションで鑑賞することをお薦めします。
彼らの悲痛な思いを忘れてはならない
小動物のような可憐さと野生味。不安気な表情、そして時折見せる柔らかな笑顔。趣里さんの魅力、渾身の演技に引き込まれた。
或る決意を胸に秘めた男性を森山未來さんが、かつて心優しい小学校教員だった復員兵の青年を河野宏紀さんが、つぶらな瞳が印象的な戦争孤児を塚尾桜雅君が熱演。
ほぼ満席のキネマ旬報シアターに登壇された塚本晋也監督。平和への思いを優しい声で語られる姿が印象的でした。
戦争の惨たらしさを私達は決して忘れてはならない。
映画館での鑑賞
戦争孤児の強い眼差しの先に…
どんな戦争映画より
戦争の愚かさ虚しさを痛感する
塚本晋也監督の作品。
2014年に公開された塚本監督版「野火」は
今まで体験した戦争映画の中で
最も生々しい衝撃を与えられました。
戦地で植え付けられた
恐怖や苦痛、憎しみは帰還兵の
精神を蝕み続けます。
戦争が終わっても終わらない苦しみ。
広島出身の自分は小学一年生から
8月6日の登校日は全校生徒で
原爆の映画を鑑賞しました。
小学生にはトラウマ級の残酷な表現や現実は
戦争への嫌悪を植え付けてくれました。
絶対に必要な経験だったと
当時の教育方針に心から感謝しています。
信念も良識も矜持もなく
バイデンの戦争ビジネスに加担し
日本を戦争の出来る国へ向かわせる
岸田総理に是非鑑賞して頂きたい。
全26件中、21~26件目を表示