劇場公開日 2023年11月25日

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「傷痍軍人の思い出」ほかげ La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)

傷痍軍人の思い出

2025年4月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 僕が小さな頃には、「傷痍軍人」と呼ばれる人がまだ居て、白い帷子(かたびら)に軍帽を被り、或る人は失った足を松葉杖で補い、また或る人はアコーディオンを弾きながら軍歌を歌い道行く人の施しを受けていました。物乞いの人を見る事はそれほど珍しくはなかったのですが、傷痍軍人の方々だけはちょっと違っていました。子供心に何だか怖く感じ、触れてはいけない物の様に思えて近づけなかったのです。それは、当時には既に見られなくなっていた戦争の傷跡が露呈している姿への恐怖だったのかも知れません。でも、今にして思えば「この怖さってなんだろう」と言うゾワゾワした思いを言葉に出来ないながらも抱いていた気がします。本作を観ていてあの不思議な怖さとゾワゾワを思い出しました。

 戦争によって心に深い傷を負った人々の終戦直後の姿を戦災孤児の目を通して描いた塚本晋也監督の最新作です。「たとえ足を失っても、手がなくなっても生きて帰って来てくれさえすれば」と、家族を戦地に送った人々は祈ったかも知れません。でも、肉体的には五体満足で戦争を生き抜く事が出来たとしても、心が圧殺され摩滅し壊死していたならばその人は「生き抜いた」と本当に語れるのでしょうか。その人たちにとっては戦争直後から新たな戦争が始まったのではないのでしょうか。そうした見たくない物から目を背け、知らない振りし、ごまかし、鈍感でいる事を「生命力」と呼ぶのだとしたら、それは辛い事です。

 そうした思いを目力だけで表す趣里さんも森山未來さんも河野宏紀さんも、そして何より子役の塚尾桜雅くんの迫力が際立っていました。

 この様な映画を観たら「やっぱり二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない」と誰もが思うに違いありません。しかし、我々が注意せねばならないのはその先です。「だから、他国からの攻撃に備えて戦費を倍増せねばならないのだ」と自ら戦争に歩み寄る愚策を押し留めねばなりません。

  2025/12/13 鑑賞

La Strada
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