「灯影(ほかげ)のような不安定さ」ほかげ talkieさんの映画レビュー(感想・評価)
灯影(ほかげ)のような不安定さ
<映画のことば>
兵隊さんは怖かったけど、神様が旦那と子どもを戻してくれたのかと思ってたんだよ。
短い時間だったけど、姉さんにとったら一生だよ。
ありがとね…ありがとね。
女がどういう経緯で「この家」(持ち主が戦災に遭って空き家になった?)に居着くことになったのかは、本作の描くところではなかったように思いますけれども。
おそらくは他に身よりもなく、この家に居着いていた女のところに身を寄せて来た「子供」も、「復員兵」も、おそらくは戦争で身寄り頼りを亡くして、「家族」の温もりを求めて女の下に身を寄せて来たのではないかと思います。
復員兵にしても、女に(今は亡き)妻の姿を見ていたのではないでしょうか。
反対に、女が、復員兵の姿に(今は亡き)夫の姿を見ていたことは、上掲の映画のことばからも明らかです。
その子供にしても、一度は女に放逐されるのですけれども。
それでも、また戻ってきたのは、疑似の「母親」の姿を女に求め、自分を追い出したことがの女の本意だったかどうかを確かめるためだったように思われてなりません。
そして、女も子供も復員兵も、登場人物は、それぞれに「心の闇」を抱えていることは、明らかです。戦争=敗戦が彼・彼女らの心を押し潰してしまったことには疑いがなく、戦争の不条理というものを、改めて見せつけられた思いもします。
結局のところ、語彙としては「灯火に照らされた姿。また、うす明りでできた陰影。」(コトバンク)を意味するという本作のタイトルは、ゆらゆらと揺(ゆら)らめく炎によって、ゆらゆらと投影される不安定な疑似家族の関係を映し出していたと受け止めるべきなのだと思います。
その意味では、充分に佳作としての評価に価する一本だったとも思います。
評論子は。
(追記)
女は、最後には病を患ってしまうようですけれども。
終戦直後の数年間は、保健衛生機関は、発疹チフス、痘そう、コレラなどの急性伝染病の防疫に追われたと聞き及びます。
熱帯地方のジャングルで戦ってきた復員兵は、日本では稀有な病気のウイルスに感染していたことも、充分に考えられるところです。
かてて加えて、復員船の中は、超過密の「三密状態」だったことでしょうから(実際例、復員船の船倉で、戦地から持ってきてしまった伝染病で病死する復員兵も珍しくはなかった)、そんな過酷な状況で帰国した復員兵たちを介して、終戦直後の日本に持ち込まれたことは、疑いようもありません。
女が感染した原因菌も、そういう経路で女にまでたどり着いたものなのでしょう。
戦争の不条理というものは、こんなところにまで顔を出すものなのでしょうか。
何とも言えない想に、心がけ痛みます。
トミーさん、いつもコメントありがとうございます。
直接に戦争(前線)には駆り出されていないのですけれども。
それでも、女も、立派な(?)戦争被害者だったのだと思うと、本当にやり切れない思いもあります。
共感ありがとうございます。
女の病気については古来から在る職業病なんだろうと思いますが、伝染るから坊やを近付けようとしない所、寄り付く者も無く打ち棄てられていく所からハンセン病の暗喩なんでは? と思った次第です。聴き取れなかった台詞は、女の顔を見て旦那? が言った下りで、余計そんな気持ちになりました。