「居酒屋から覗く闇の戦後社会」ほかげ マユキさんの映画レビュー(感想・評価)
居酒屋から覗く闇の戦後社会
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『ヴィタール』でまさに作風の「跳躍」を見せた塚本監督は、『野火』で更なる変貌を見せた。その『野火』と本作『ほかげ』をあわせて「戦争」をより立体的に描く。「日本映画が描く戦争とは『銃後』だ」との伝統に則るなら、本作こそ正統派戦争映画なのかもしれない。
「穴蔵から覗くかのごとき都市」から「居酒屋から覗く戦後社会」へ。焼け残った居酒屋で売春をしている女の元へやって来る者たちに、刻印された戦争の傷痕を見る。また、社会学者の宮台真司が、初期塚本作品に見出した「自己確証が(意外にも)自己破壊を帰結することで(意外にも)癒される」というモチーフは変奏され、本作で、ふたりの男に分かち持たれた。復員兵は戦争の悪夢に侵食されて廃人となる。テキ屋の男は『ゆきゆきて、神軍』の奥崎謙三のように、かつての上官に復讐する。自己破壊と他者破壊。その根源に戦争があることを、間接的に描き出す。
『KOTOKO』で自己パロディを通過し、日本の近現代史の中の「戦争」を注視することで、塚本作品は一層深みを増した。居酒屋の女が、性感染症(おそらく梅毒)に罹り、戦争孤児だった「坊や」と別れる際に、盗んだ拳銃を置いて行かせる。塚本作品も「個人的暴力」から「国家的暴力」注視へとシフトしたのだ。
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