劇場公開日 2023年11月25日

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「”『ゴジラ-1.0』とはまた異なった視点で終戦直後の日本を描いた一作」ほかげ yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5”『ゴジラ-1.0』とはまた異なった視点で終戦直後の日本を描いた一作

2023年12月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

「ほかげ」のタイトルが現れるまでの描写が非常に秀逸で、終戦直後の日本における、不穏と絶望、人ならざる者と化したような人の哀しみを、小料理屋の荒んだ様子と主人公の女性(趣里)の佇まいだけで一気に描いて見せます。

どうしても塚本監督の『野火』(2014)とのつながりを感じずにはいられない復員兵(河野宏紀)の、もはや心が死んでしまった有様は、『ゴジラ-1.0』の敷島(神木隆之介)がその鬱屈を割と素直に表現していたことと比較して、内にため込んで狂気の域にまで煮えたぎった苦しみに押しつぶされた末路であって、もはや人ではないのではないかと思ってしまうほどに屈みこんだ姿には得も言えぬ凄味があります。そんな復員兵を、ガラス越しのぼんやりとした光に映し出されるシルエットだけで表現してしまうすごさ。

小料理屋の内部だけで展開する、現実と幽界が溶け込んだ感のある前半部は、その先行きの見えなさと恐ろしいまでに執拗な生活描写に引き込まれますが、語り手の視点が変わる中盤以降は、物語の筋をなぞるような展開にやや傾きがち。ではあるけど、『野火』から続く「戦後の捉えなおし」という課題に一定の決着を付けた、塚本監督の語り手としての誠実さが伝わってきました。

今年後半は『ゴジラ-1.0』、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』、そして本作と、偶然にも「あの戦争は何だったのか」を問い直す作品群が登場しましたが、本作はその語りのリレーの一つの到達点となっています。決して楽しい気分になる映画ではないけど、これはぜひ劇場で観たい一作。

yui