劇場公開日 2023年10月13日

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「経済合理性の思想に騙されてはいけない」月 グレシャムの法則さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5経済合理性の思想に騙されてはいけない

2023年10月31日
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鑑賞方法:映画館

まさか、『愛にイナヅマ』と同じ監督がほぼ同時期?に作った映画だとは⁉️

でも、この監督さん、主演俳優に〝顔〟で演技させるのが好きなのですね。宮沢りえさんが過去の辛い思い出と高齢出産の不安を重ねるあたりはまさに真骨頂。

(障害者に関わる様々な事象やご家族のことを想像すると、俯瞰的に考えることができなくなってしまうので、以下は敢えて当事者の方々とは距離をおいて書いてます。もしかしたら不愉快な思いをされるかもしれませんが、ご容赦ください)

さとくん勇斗さんが、元々持っていた正義感が蝕まれ追い込まれた挙句、狂気に変容する様も見事だし、彼が滔々と語る〝正論〟(ここでは敢えてそう言います)も説得力を持つことになる。

でも、経済合理性を盾に語る人間を誰が批判できるのだろう。
今の世の中は、コスパによる評価が社会の規範になってます。受験競争も社会人になってからの人事評価も目先の結果や成果ばかり追い求めてるから、みんな余裕を無くしてる。勉強が苦手でも気の優しい人間とか、要領は悪いけどなんだか芯は通ってる人間、そういう人は受験や就活という期間限定での競争からは結果的に〝排除〟されていきます。だから、〝大器晩成〟という言葉が死語になりました。
成長には個人差があるのに、それを待てない大人ばかりだから、こどものほうも自分だけがいち早く評価されたくて、人を蹴落とすことばかり覚えてしまう。
受験競争も出世競争も自分が勝ち残るためには、自分が抜きん出る努力をするよりも他人を蹴落とすのが早道。自分のノートを貸して友達が自分よりいい点を取ってしまうなんて事態は全面回避したくなるから、助け合うよりもギスギスしていく。
経済合理性の方が人命より価値があるのだから政府も僕を褒めてくれる、と手紙を書く若者が出現したのは、ある意味で日本政府の国民教育の成果なのですね。さとくんにとっては、それはリアルな現実です。
勲章がもらえるくらいのことをしてるんだぜ、オレ。

宮沢りえさんが、さとくんとのやりとりの中で、自信を失っていくのは、クリエイターである作家ですら、経済合理性の思想に侵され、その論点で発想せざるを得ないから。
人間性の尊重や尊厳、福祉などの制度的な救済。
これらの概念は大人たちに余裕のある成熟した社会ならそれなりに備わっているもので、経済合理性の論点とは別次元のこと。金のことだけ考えたらムダと思えることを社会の枠に収めて運用できるのが成熟した社会。
自分の家族の問題を社会と共有するのが憚られるし、自分の事情に負い目を感じざるを得ないということは、この日本の社会がまだまだ成熟途上(むしろ後退かも?)ということだと思います。
でも、今の政治家は要領よく私利私欲を満たすコスパ脳はあるけれども、余裕を感じさせる成熟した大人とは程遠い人ばかりだし、中年も高齢者も全体的にはどんどん成熟とは反対の方向に時間を重ねている気がします。

小難しいことを長々と書きましたが、簡単に言えば、
フーテンの寅さんのような人が、自分の兄弟であってもにこやかでいられるし、一般社会の人たちもあんな非生産的な人はムダ、とか、あんな人に生活保護費が出るのは怪しからん、などと狭量なことをいうような社会だとすれば、成熟とは程遠い。
そういうことだと私は考えます。

グレシャムの法則
かばこさんのコメント
2023年11月13日

共感とコメントありがとうございます!

汚いものにさくっと蓋ができる人のほうが生きやすい、と思いました。突き詰めて考えない分、楽なんだと思います。

かばこ
レントさんのコメント
2023年11月2日

共感とコメントありがとうございます。戦後の3s政策なんてありましたよね。今のネット民なんかを見てると愚民化政策は成功してるようにも感じられます。近未来SFではなく現代劇かもしれませんね。

レント
レントさんのコメント
2023年11月2日

おっしゃる通り戦後最長政権のもたらした教育改革の成果、あるいはそれにさかのぼって行われてきた新自由主義的経済政策がこの国をここまで世知辛くしたのかもしれません。一億総中流と言われた時代はまだまだ人々の間に余裕があった気がします。

レント