劇場公開日 2023年10月13日

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「あなたは無傷で手ぶらで善の側に立とうとするなんてズルいですよ。」月 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0あなたは無傷で手ぶらで善の側に立とうとするなんてズルいですよ。

2023年10月30日
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鑑賞方法:映画館

重いなあ。問題作だって言ってる人、現実を分かってないって憤る人、そういう人もいるだろうけど、こうして人の嫌がるところに手を突っ込んで問題提起をすることは評価すべきだと思う。少なくとも、知っていながら知らんぷりしているよりも。宮沢りえやオダギリジョーたち役者陣は、おそらく撮り終えた後に疲労困憊だったことだろう。観ているだけのこちらがこれだけ心が重くなったのだから。

検診で子供に障害が見つかった場合、96%の人が中絶を選ぶらしい。洋子(宮沢りえ)も問い詰められる。「同じでしょ?障害があったら中絶しようと思ったでしょ?あなたは無傷で手ぶらで善の側に立とうとするなんてズルいですよ。」見透かされているのだ。いい人であろう、常識人であろう、弱き者の味方であろうと思いながらも、いざ自分が「そちら側」の立場になるかも知れぬと察した時の、人間としての狡さ、小賢しさを。そして、それを素知らぬ顔で違いますよと言い返せぬ正直さを。そうさ自分だって、人には授かった命だからとか何とか体裁のいい言葉で善人振ってしまうんじゃないかと思うもの。心の中では96%の1人でありながら。この映画を観る行為だけで、さもこの問題を知っているかのような似非満足に浸ろうとしていたのだから。洋子の戸惑いは、自分の中にもあるのだ。せめて、そんな自分の中にある「善意のふりした悪意」に自覚していようと思う。
希望と絶望が同時に襲い掛かってきたようなラストは、今の世の中、この問題がまだまだ解決していない、いやむしろ解決のしようのない泥濘なのだと思い知らされたような気分になった。

栗太郎