「生きてても意味ないなんて大きなお世話 人を殺す権利は誰にもない」月 たあちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
生きてても意味ないなんて大きなお世話 人を殺す権利は誰にもない
原作は2016年の夏に相模原市の知的障碍者施設で起こった大量殺人をモチーフにした辺見庸の小説で、それを石井裕也が映画にしたというのだから観るしかなかった。障碍者と老人の違いはあるが、3月に公開された「ロストケア」とテーマ的には近く、19人を刺殺した「さとくん」を見ながらずっと松山ケンイチを想起していた。要するに「安楽死」の問題なのだが、誰もが「なんで生きているのか」なんて分からないのに、ましてや他人様のことをとやかく言うなんて余計なお世話である。磯村勇斗は嫌いな役者ではないし、今回もどう演じてくれるのか楽しみにしていたが、まあちょっと相当残念だった。彼の力量不足なのかキャラクター設定が定まっていないというか彼自身が「さとくん」をつかみきれていないのであろう、唯一見ごたえのあった宮沢りえとの対決にしても、松山ケンイチと長澤まさみのバトルに遠く及ばない。ボクシングジムで鍛えたり刺青を入れたり金髪に染めたり気持ちは分かるのだがどれも小手先の演出にしか見えず、聾の彼女を抱いて「今日殺してくるよ」と告げるシーンはすごく美味しい場面なのに、ただフラットに演っているだけで真実味が無いのだ。ラスト近くの回転寿司屋でカタカタという音と寿司の皿が流れていくアップが続く場面がなぜか心に残って、やっぱり石井裕也はへんな監督だと最後に確認した。
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