「哀切きわまりない。傑作。」6月0日 アイヒマンが処刑された日 あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
哀切きわまりない。傑作。
まずこの映画はクロード・ランズマンに捧げられている。「SHOAHショア」でホロコーストを徹底的に描いた映画監督である。
イスラエルには一度行ってみたかった。旧約聖書に遡る長い歴史を持つ民族が極めて人工的に創った新しい国家。宗教と因習、科学的合理性が同居する独特の社会。
この映画はアドルフ・アイヒマンの裁判と処刑、火葬に関わった数人の人物の視点で1962年の6月某日(実際は処刑は1日だったらしい)とそれに先立つ数日間を描く。主要な人物としてはダビッド少年、工場主のゼブコ、収容所のハイム大尉、検事補佐のミハなど。注目すべきはそれぞれの出自が異なること。もちろんユダヤ民族の血は流れているがイスラエル建国前に住んでいたのはリビア、トルコ、モロッコ、ポーランドとバラバラ。
イスラエルは建国後に世界各国からユダヤにルーツのある人々が集まって成立した国家だからこういうことになる。
そして不幸なことにこの寄せ集めの国民の団結の象徴がアイヒマンを捕らえ処刑することになってしまった。国家の礎となるべき国民共有の歴史がホロコーストとその復讐である、こんな不幸なことはない。この映画はそれを余すことなく描いている傑作です。
最後に一つ。ダビッド少年の父親は恐らくは自分たちのユダヤ民族としてのアイデンティティの薄さを気にしていて、だから息子にダビッドとイスラエルという名前をつけたのでしょう。でも弟のイスラエルは事もあろうに父親の出身地であるアラブとの戦争で命を落とすことになる。民族、国家の不幸はまだ続いているのです。
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