「完璧な人生を送っている人"以外の"全ての人にとって観る価値あり」ダンサー イン Paris K2さんの映画レビュー(感想・評価)
完璧な人生を送っている人"以外の"全ての人にとって観る価値あり
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とにかく優しく、美しい映画でした。
映画は、完璧な美貌と技量を持つ(らしい)プリマドンナ=主人公がステージ上のカーテンの覗き穴から幕前の客席に誰かを探すシーンから始まります。その舞台で主人公の心と人生を揺さぶる出来事が起こった後、そのままスタイリッシュなオープニング映像に繋がって行き、一気にストーリーに引き込まれてしまいます。
冒頭の5分位の中に監督の腕前が凝縮されていて、このまま最後まで映画の世界に没入して行ける感じです。
ストーリーは、簡単に言うと「挫折と再生」そして「家族」の物語。ほとんどヒネリもないシンプルなものですが、登場人物や舞台設定がとにかく美しく、一つひとつのエピソードと登場人物の心の動きが丁寧に描かれていきます。
特に、随所に散りばめられたダンスシーンがとにかくキレイなので、それを見ているだけで全く飽きずに最後まで観られます。
主人公は冒頭のシーンでこそ完成された”美しさ”と”強さ”を備えたバレリーナとして描かれますが、そのあとは全編を通して、ほぼ化粧っ気のない等身大の悩める26才の女性であり、そのギャップがいい感じで物語を活き活きとさせています。
結構生々しいシーンがあったり(但し、暴力的描写は一切ない)、登場人物が激しく意見をぶつけ合ったりするんですが、終始カラッとして嫌味がないのは、多分フランスのサバサバした文化、国民性に拠るところが大きいと思います。
邦画で同じことをやったら結構ウエットな感じになって、同じような映画にはならないでしょう。
逆にそれを無理にやろうとしたらかなりの違和感が出そうな気がします。
最近のフランス映画というと、根強く存在する階層間の対立や貧富の差などの社会問題を反映した、陰鬱で殺伐としたテーマのものも多い印象を持っていますが、この映画には全くそんなところがありません。
これからこの映画を観る人に一つアドバイスするとしたら、
この映画には、意外性を狙った展開や、敢えて聴衆の心をザワつかせるような奇をてらった出来事、演出は一切ないので、最後まで安心してストーリーに入り込んで主人公やそれを取り巻く登場人物達の再生と成長の物語を見届けて下さい
と言いたいです。
P.S.
誰かのレビューにもありましたが、確かにこの映画のテーマを何も表現していない邦題はちょっといただけませんね。1年もたったら忘れてしまいそうなありふれた名前です。
原題は En Corps(英語でIn Bodyの意)、アメリカ題の Rise の方がまだ大分マシだと思います。