劇場公開日 2023年9月15日

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「日曜の午前中、若い人たちでほぼ満席!」ダンサー イン Paris 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0日曜の午前中、若い人たちでほぼ満席!

2023年10月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

パリの中心部にあるシャトレ劇場で撮影されたクラシック・バレエの公演「ラ・バヤデール」に始まる。中心になるのは、パリ・オペラ座のバレエ・ダンサーであるマリオン・バルボーの扮するエリーズ。
エリーズは、舞台でラ・バヤデールの公演中、恋人の裏切りを見て動揺し、着地に失敗。足首の古傷を傷めてしまい、MRIで剥離骨折が見つかり、舞台復帰は難しいかもと指摘される。幼い頃から、両親の理解があって、レッスンを重ね、オペラ座のバレエ学校を経て、エトワールを目前に控えている彼女には、どれほど辛い試練であったことだろう。それでも友人に導かれて、ブルターニュにある芸術家の合宿所に行って食事の準備を手伝ううち、コンテンポラリー・ダンスと出会い、強く魅かれてゆく。
長い歴史を背景に、確固とした規範があり、それに向かって努力し、しかも維持するために精進を欠くことができないクラシック・バレエと、躍動感とスピードに富み、動きが自由な分、人間の弱さをも受け入れてくれるコンテンポラリー・ダンス。それぞれの良さを実感させてくれる映画だ。
ダンスと並んで、エリーズの周りに出てくる人物たちの食事にまつわるエピソードが楽しい。友人のサブリナと彼女の恋人で料理人のロイックと共にブルターニュに移動するとき、車の中で、二人が動物性食品を一切口にしない「ヴィーガン」を巡って言い争ったり、食事を彼らが用意するようになってから、NAGOYA風の味付けとして「しょうが」と「ゆず」が出てきたり、洋梨を使ったデザートのとき、フルーツ・ブランディー(オ・ドゥ・ヴィ・ポワール)を競って飲むところなど。これらの情景が映画にリアリティを与えている。
ケガをしたとき、リハビリを担当する理学療法士(kiné)のヤン(フランソワ・シヴィル)もおかしい。演技が初めてのエリーズ役のバルボーには救いだったろう。彼はインドのゴアに行ったりするので、この頃、パリの街中でよく見かけるヨガに興味があるのだと思った。
若いとき、足を傷めて自分自身の道を進むことは断念したものの、芸術を志す若者を支援するために、芸術家の合宿所(とは言え、レジデンス)を経営しているジョジアーヌ(ミュリエル・ロバン)と父親のアンリ(ドゥニ・ポダリデス)がポイント。ジョジアーヌが、本当はエリーズの背中を押してあげたのではないか。アンリとエリーズは、一見、いつも話が食い違っていて、会話が成り立っていなかったが、実は、この父親は、一歩退いたところから、弁護士らしい冷静さを持って、母親の亡き後も可愛い末娘のことを見守っていたに違いない。ケガをして苦しんでいる時に、バレエ・ダンサーには2回の人生があると言われたって、直ちに受け入れることはできないことも理解できるが。そう言えば、父親の仲間達とエリーズが待ち合わせたシテ島の広場や、二人で食事に行ったサン・ルイ島の入り口のレストランも魅力的だった。
是非、道に迷っている人たちに(これまで迷ってきた人たちにも)観てほしい一本だ。

詠み人知らず