劇場公開日 2024年3月15日

「たまたまやってたから観ただけですが…」変な家 モアイさんの映画レビュー(感想・評価)

2.0たまたまやってたから観ただけですが…

2025年5月3日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

何を見るでもなくテレビを点けていたら始まったこの映画。そのまま何の気なしに鑑賞し、作品に正対していた訳でもないのにこんな事を言うのもなんですが、うん、まぁ普通?という感じでした。

一見普通に見えるが、よく見ると奇妙な違和感を覚える家の間取り。その違和感の正体を追っていくうちにその裏に隠された恐ろしい真実に辿り着くという物語なのですが、その違和感の正体や隠された謎を追う過程が淡白過ぎる感じがします。

映画の序盤、主人公たちが間取りの謎について推理していく展開がある訳ですが、それが「何故そうなる?」というような、いくらか強引で突飛な印象を受けます。ところが結局その突飛な推理が物語上では正解であり、「あっ、そうなんだ…、へー」という感じで物語はどんどん進んでいきます。
途中出てくる謎めいた登場人物の素性も、不可解な言動をする人物のその意図も割とあっさり明かされていき、中盤以降は「誰々さんの知り合い」みたいな感じで芋づる式に次々と重要な証言者が現れ、その証言者の証言に沿って次の目的地へ移動していけば、事の核心へ迫っていけるため、「コレそういう事だったのかぁ!」というような謎が解き明かされた時の快感もえらく薄いです。それと途中、主人公が2回くらい気絶しますが、これも目が覚めたら絶体絶命‼の様な状況になっている事もなく、なんともストレスフリーな映画なのです。
なのでスイスイ見られてしまうというのはその通りなのですが、それ故にこちらの予想を大きく覆してくる展開もなく、「なんで1人で行くの?」「なんでここに居るの?」「なんで今それ言うの?」というツッコミどころが悪目立ちする結果になってしまった感じがします。
これらのツッコミどころは大抵のホラー映画にあるものなのですが、面白いホラー映画というのはツッコミどころもご愛敬という感じで映画の評価を下げる要因には余りならないと思うのです。ツッコミどころのマイナス要因を、恐怖のシチュエーションであったり、人の情念の描写であったり、おばけや怪物の設定や造形であったりという何かしらの秀でたプラス要因で上回り、ホラー映画特有のご都合主義展開をフォローしているのだと思うのですが、残念ながら私には本作からマイナスを上回るプラス要因を見出す事はできませんでした。

この映画が公開されるより前の事なのですが、普段YouTubeを見る習慣のない私が、その時はたまたまYouTubeでモキュメンタリー系のホラー動画を漁っていたのです。
その際にこの映画の原作者である雨穴(うけつ)さんの動画に出会いました。最初に見た動画は『恋愛シュミレーションゲーム「おせちプリンセス」』です。
黒い全身タイツに白いお面という出立で、先ず人なのか?人ならざる者なのか?とにかくどういう存在であるのかまったく謎な雨穴さん自身が、おせちと恋愛するゲームを淡々とプレイしながらコメントを呟くという筆舌に尽くしがたい世界観に興味を惹かれ、雨穴さんがあげている動画を見て回ったのです。
オリジナル楽曲やグロテスクな自作オブジェなどどれも薄気味の悪い動画ばかりなのですが、その中にホラーミステリー動画があります。
雨穴さんの元に寄せられる奇妙な事象の相談事。雨穴さんは持ち前の調査力と洞察力でその奇妙な事象の裏に隠された真実を紐解いてゆくという内容のホラーミステリー動画は雨穴さんのYouTubeチャンネルの人気コンテンツです。

いくぶんくたびれた感じの小部屋で、小さなちゃぶ台の上に時代錯誤なブラウン管モニターのPCを置き、片手に固定電話の受話器を、もう片方の手にペンを握ってメモを取る雨穴さん。動画の大半はこの絵面で占められていますし、物語や謎解きについては映画同様(原作者なのだから当たり前ですが)いくらか強引で突飛な印象を抱くものも多いのですが、個人製作で出演者も実質1人という超限定的な条件の中で、見始めたらついつい最後まで見入ってしまう物語を紡いでみせるその手腕に感心させられます。
そして見た目の不気味さんに反して妙に丁寧な物腰 や ほんわかした雰囲気を醸しだす雨穴さんに親しみを覚えてしまうのです。つまり雨穴さんの動画の面白さの大半は雨穴さん自身の魅力によるものだと思うのです。

ならば雨穴さんの動画をそのまま映画として公開すればいいのか?というと多分それも違うのでしょう。YouTubeにあげられた無料公開の個人製作の動画と劇場公開の映画作品とではやはり求められるものが違うのだと思うのです。その違いはもしかしたらそれぞれの媒体に対する私の勝手な固定観念でしかないのかもしれませんが、映画化に際してはやはり映画に最適化する作業が必要だと思うのです。そうして映画化した事で映画ならではの面白さが加味されたのなら良かったのでしょうが、なんとも平凡な出来に落ち着いてしまっています。

実際にどれほどの予算で作られた映画かは知りませんが本作からは別に安く作った印象は受けません。出演陣も有名どころで固めています。しかし本作からはホラー映画に何より必要だと思う、作り手側のアイディアと情熱(ホラー映画に限らずか?)を感じることが出来ませんでした。
この映画からはある程度の集客は固いだろうという醒めてはいるが商業的に的確な判断の企画と、全体をソツなく仕上げた面白みのないプロの無難な仕事があるだけだったと感じ、鑑賞後に少し虚しい気持ちになる映画でした。

モアイ
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