劇場公開日 2023年7月28日

「姉と私の忘れえぬひと夏の経験。子供はみんなイノセンツ。」イノセンツ レントさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0姉と私の忘れえぬひと夏の経験。子供はみんなイノセンツ。

2024年1月29日
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鑑賞方法:VOD

怖い

知的

福祉国家として有名なノルウェー、かつては移民政策にも積極的で一時期移民の数は人口の一割を超えるほどに。しかし極右過激派の男がその移民政策に反対して連続テロ事件を起こした。「ウトヤ島、7月22日」はそのテロ事件を描いた作品。その事件をきっかけに保守政党が政権を握りノルウェーは移民規制に舵を切ることとなった。そんな経緯があるだけに移民の子供が悪役の映画なんて作って大丈夫なのか、ただでさえ移民には風当たりが強いというのに。この監督は移民反対派の人間なのかな。
監督のインタビュー記事を読むと、オーディションで人種性別関係なく演技力で選んだら結果的にあのキャスティングになったとのこと。移民という設定自体はキャストが決まった後に改編したらしい。ちょっと勘ぐりすぎたかな。

小学生の頃、捕まえたバッタの足を友達が楽しそうに一本一本むしり取っていた光景は今も脳裏に焼き付いている。無邪気でたわいもない子供の遊び、しかし残酷でもある。他者への思いやりの感情がまだ芽生えてない幼き頃、そんな幼少期のひと夏を描いた異色の作品。

それぞれの事情を抱えた子供たち、イーダはまだ幼く甘えたい盛りにもかかわらず両親は自閉症の姉につきっきりで、その寂しさを紛らわすためかまたは姉への嫉妬からか細かな嫌がらせをしたり、虫を殺したりしている。
ベンは母子家庭で体にあざがあることから母親から虐待を受けてるようである。アイシャはソマリア難民の母親が夫を亡くしたばかりで情緒不安定。そして自閉症のアナ。そんな問題を抱える四人がひと夏をともに過ごす。四人は無二の親友になれるかと思われた。

だがベンの抱える闇は深刻だった。涙を流しながらも動物をたやすく殺してしまうほど、もはや心のバランスを失いかけていた。監督は善悪の分別がつかない頃の子供時代はみなそれなりに悪いことをしたものだというが、昆虫を殺すのと哺乳類を殺すのとではわけが違う。人間と同じ赤い血が流れてる動物を快楽で殺せる人間は過去の実例からもわかる通り次は人間を標的にするものだ。

母親の命を奪ってしまったベンは歯止めが利かなくなり三人に対しても牙をむく。そんなベンに三人が立ち向かう。自閉症のアナは唯一の理解者アイーシャを奪われてベンと対峙する。互角の能力を持つ二人だが、そこに同じく能力に目覚めたイーダが加勢して二人は勝利するのだった。

この経験で少しだけ成長し、イーダとアナの絆は深まった。そしてお絵描きボードにただ殴り書きをしていたアナの手が止まるラストカット、彼女の進歩をうかがわせるシーンだと解釈した。

幼少期の忘れえぬ甘酸っぱい成長譚とサイキックスリラーを足したような作品。ただサイキック描写の部分は少々物足りなかった。大友克洋の童夢にインスパイアされたなんていうもんだからどんなアクションが見られるかと思ったら肩透かしを食らった。
サイキックアクションといえば古くは「スキャナーズ」の頭部破裂、血管浮き出しまくりの血しぶき出まくりから、北斗百裂拳を食らった悪党が体を爆裂させるかのような「フューリー」の人体大爆発までと、ありとあらゆるサイキック描写を堪能してきた自分としてはいささか物足りない。かといって心理的に怖がらせてくれるかと思いきや「シャイニング」には遠く及ばない。監督のインタビューを読むとどうもサイキックホラーというジャンル分けも無理があった気がする。やはり子煩悩な監督が描いた子供たちの幼少期の成長譚ととらえるのが無難なんだろう。

演技力で選んだというだけあって四人の子役の演技は圧倒的だった。難しい役どころを見事に演じていた。

レント