「「超能力」に「科学」を見た」イノセンツ SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
「超能力」に「科学」を見た
団地(集合マンション)を舞台にした、その辺に普通にいる一般人が繰り広げるサイキックバトル! これはまさに大友克洋の「童夢」を思わせる。「童夢」は漫画世界におけるリアリティを革命的に更新したけど、この映画はさらにそのリアリティを上書きした感じ。現実に超能力が存在したとしたら、どのよう場所でどのような人間にどのような状況で発生するのか、その力がどのようなものなのか、圧倒的なリアリティがある。子役の演技力も驚嘆するしかない。
タイトルの「イノセンツ」というのは、「無邪気」「無垢」「純粋」みたいな意味だろうか? しかしポジティブな意味というよりは、子供が「無知」ゆえに歯止めのかからない残酷さや、他人や動物への想像力の欠如をもつ存在である、非常にあやうい不完全なものでことを示唆しているように思う。
ふつうは子供は無力であるゆえに、その不完全さが大きな問題にならないのだが、それの不完全な存在が大人には見えない(理解の範疇を超えている)強大な力をもってしまったらどうなるのか、と考えざるを得ない。
子供たちの様子や心理は、何か舞台であるノルウェーの社会のゆがみをあらわしているっぽい。同じ集合マンションの中での幸・不幸の差、多様な人種の中での差別(?)、貧富の差みたいなゆがみがあって、最も弱い立場である子供たちがそのゆがみをひきうけている。
ただ、僕はこの映画を観ていて、監督の意図とは全く違うかもしれないのだけど、この子供たちが今の人類を象徴している気がして仕方なかった。
つい数百年ほど前における科学革命で、「科学」という自然に隠されたささやかで神秘的な力を発見し、無邪気に喜ぶ人類。はじめは遊ぶ程度にその力を楽しんでいたが、実験をくり返しながら、この力をもっとうまく使いこなすことに夢中になる。そして、原子爆弾をはじめとする、一歩間違えれば人類を破滅させ、地球環境を一変させることができるくらいな強大な力を手に入れるほどになり、そこではじめてこの力に恐怖を感じるようになった。
人類はこの強大な力をコントロールし、うまく使いこなせていけるだけの、倫理観も、自制心も、智慧も、合理的思考も持ち合わせてはいない、いまだ「幼児」の段階だと思わざるを得ない。
この映画の子供たちが、子供が扱うには危険すぎる強大な超能力をもってしまい、ハラハラどきどきしながら見守る心理は、まさに人類が科学技術をうまく使っていけるか、とハラハラする感じに似ている。