劇場公開日 2023年9月15日

「{ミステリー}と{ホラー}のハイブリッド。両者の塩梅や良し」名探偵ポアロ ベネチアの亡霊 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5{ミステリー}と{ホラー}のハイブリッド。両者の塩梅や良し

2023年9月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

知的

『ケネス・ブラナー』が監督・主演を務める
『エルキュール・ポアロ』シリーズの第三弾。

が、先の二作〔オリエント急行殺人事件(2017年)〕〔ナイル殺人事件(2022年)〕が
ほぼ原作をなぞって造られていたのに対し、
本作は”〔ハロウィーン・パーティ〕より”とされているように、
事件が起きる日や過去の事件との絡みで新たに起こる殺人との
骨格の部分は引用しつつ、その実態はかなり異なるストーリでの仕上がり。

物語りは、旧知の探偵作家『アリアドニ(ティナ・フェイ)』が主人公の元を訪れるところから。
彼女は自身が『ポアロ』を有名にしたとの自負を持ちながら、
直近の三作は酷評され、新作での起死回生を目論んでいる。
原作者の『アガサ・クリスティ』を投影したような造形。

二人が向かった先は旧家で開催される「交霊会」。
女主人で、以前は売れっ子のオペラ歌手だった『ロウィーナ(ケリー・ライリー)』は
数年前に最愛の娘を亡くしており、
その霊を霊媒師の『ジョイス(ミシェル・ヨー)』に呼び出して貰おうとするものだった。

しかしその場で事件は起こり、
あまつさえ『ポアロ』まで命を狙われる。

これは{ホラー}か!とも取れる、
鬼面人を嚇すシーンが頻出。

最終的には科学的な説明がつけられはするものの、
予備知識無しに観ると心臓に悪いことこの上ない
過去作には見られなかったテイスト。

全ての容疑者に時間的なアリバイのあるトリックや、
密室での殺人は、種明かしをされればやや肩透かしに近い内容も、
そこに至る経緯には二重三重の罠が張り巡らされ、
推理する主人公の慧眼を際立たせる構成。

脚本の『マイケル・グリーン』の腕の冴えを
胸のすく思いで見る。

また全体を覆うおどろおどろしいトーンは
制作に名を連ねる『リドリー・スコット』の影響かとも思わぬでもない。

脚本家も彼のお気に入りのようだし。

「代理ミュンヒハウゼン症候群」が産んだ悲しい結末は
しかし、{ミステリー}よりは{ホラー}の要素が強く出た描写。
この好嫌により、本作への評価は賛否分かれることだろう。

ジュン一