「そのイメージの源泉を知るとき、クリエイターは独りよがりから脱却する」バジーノイズ Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
そのイメージの源泉を知るとき、クリエイターは独りよがりから脱却する
2024.5.4 イオンシネマ京都桂川
2024年の日本映画(119分、G)
原作はむつき潤の同名漫画『バジーノイズ(小学館)』
DTMで音楽を作る人見知りの青年と、その音楽に癒される女性の邂逅を描いた音楽映画
監督は風間太樹
脚本は谷口恒平&沖野浩孝&風間太樹
物語の舞台は都内某所
マンションの管理人として生計を立てている清澄(川西拓実)は、DTMで音楽を作るのが趣味で、時折スピーカーから大音量で流していた
それは近隣住民の「騒音問題」に発展していて、「今度苦情が入ったら追い出す」とまで言われてしまう
だが、その音楽を「騒音」と思わずに聞き入る女性・潮(桜田ひより)がいて、彼女は清澄の上の階に住んでいたが、管理人がそれを作っているとは思ってもいなかった
ある日の夜、失恋した潮は「音楽」を求めて、下の階のチャイムを鳴らした
起こされた清澄は自分が作曲者であることがバレて焦るものの、潮は音楽が聴きたいという
清澄は「追い出されるから無理だ」というものの、自分の音楽を気に入っていると言ってくれた潮の言葉を思い出し、深夜なのに大音量で音楽を流してしまう
そして、潮はベランダのガラスを割って、彼の部屋へと入って来てしまうのである
清澄はマンションを追い出され、とりあえずはネットカフェに泊まろうと考える
それについていく潮だったが、ふと音楽のイメージが膨らんだ清澄は「曲を書きたい」と言い出す
近くの海岸に向かった清澄は、そこでイメージを音に変えていく
そんな様子を録画していた潮は、その動画をSNSに上げてしまうのである
物語は、その動画がバズったことによって、清澄の日常が激変する様子が描かれていく
潮はレコード会社に勤めている幼馴染の航太郎(井之脇海)を連れてくるものの、清澄は会社とはやらないという
かつてバンドを組んでいた清澄は、納得いかない状態で演奏するハメになり、ライブから逃げた過去を持っていた
それゆえに誰かと音楽をやるということは考えておらず、潮の行為はお節介でしかなかったのである
映画は、かつてのバンドメンバーである陸(柳俊太郎)が動画を知って会いにくるところから動き出す
陸は航太郎がマネジメントしているマザーズディのベーシストだったが、バンドの音楽性に不満を持っていた
陸は清澄と音楽がしたいと言い、そこで航太郎は彼らをスタジオに連れていく
空いた時間を利用してセッションをするものの、予定よりも早くマザーズディのメンバーがスタジオ入りして微妙な空気になってしまう
陸はリーダーの洋介(奥野瑛太)との折り合いが悪く、マザーズディを抜けて、清澄との音楽の道を選ぶ決意を固めた
映画は、音楽ができない潮が徐々に疎外感を感じ、清澄との距離を取っていく様子が描かれ、清澄は自分の力が試せるステージへと登っていく様子が描かれていく
だが、音楽制作をしていく中で、自分の中にあるイメージが潮でできていることに気づき、その喪失感すらも音楽になってしまう
潮は自分の役割は終わったと感じていたのだが、清澄が凪(駒井蓮)のコンサートで演奏しているのを見て、「楽しそうではない」と感じ、「古参のファンとして言いたいことがある」と彼の元へと訪れることになった
プロデューサーの沖(テイ龍仁)はクリエイターの旬を逃したくないと考えて環境を与え、ドラマーの岬(円井わん)やデビュー前のアンクヘッド(櫻井海音&田中偉登&大友一生)などへの楽曲を作らせていた
潮たちは「清澄がそれを望んでいるのなら喜んで送り出そう」と考えていて、清澄の意思を確認するために無茶な行動を起こしてしまうのである
Yaffleが楽曲提供をして、主題歌の歌詞をいしわたり淳治が作っていて、JO1のリードボーカルの川西拓実が歌っている
いわゆるファンムービー的な要素が強いのだが、青春音楽映画としてのクオリティはとても高い
清澄が作り出す音楽と劇伴の使い分けとか、それが融合していく様子が絶妙で、清澄自身が「自分の中にあるもの」に気づいていく演出も綺麗に描かれていく
回想は瞬間的に映像だけで、それでも彼が何を思っているのかわかるし、その大切さというものも伝わってくる
このあたりの演出や構成のセンスが抜群で、それでも独りよがりになっていないところがすごいと思う
ハイセンス系にありがちな無意味に思える風景とかは挿入されず、訴求効果のあるシーンを紡いでいくので洗練されている
そう言った意味において、かなり完成度の高い作品になっていて、拙い演技も主人公のキャラ設定で飲み込んでいるので、いろんな要素がうまく絡んでいるように思えた
いずれにせよ、個人的に好きな音楽が登場しまくるので何度でも観たくなる映画だが、万人受けするのかは何とも言えない部分がある
映画のタイトルは「バズった騒音」という意味があって、誰かにとってはノイズに過ぎないかもしれず、音楽性も誰にでも刺さるものではないかもしれない
音楽はある感情表現であるものの、そこに降りてくるものを共有できるかどうかは、それぞれの経験値に依ると言える
映画自体もそのような価値観の派生であると思うので、守備範囲はかなり狭いものの、個人的にはとても良い映画だと思う
なので、刺さったという人は、自分の言葉でシェアしてあげて、古参のファンになれば良いのではないだろうか