「感情がぐちゃぐちゃにゆすぶられる、私は笑いながら泣いていた。」さよなら ほやマン なすこさんの映画レビュー(感想・評価)
感情がぐちゃぐちゃにゆすぶられる、私は笑いながら泣いていた。
石巻のとある離島に暮らす兄弟と、
東京からやってきたワケアリ漫画家との出会いを中心に
震災から10数年経過した今を描いた映画
なのだが、、、
単に『震災』だけの物語では無かったと思う。
軽度障害を持つシゲル
純粋でやさしいその兄アキラ
良くも悪くも直球ドストレートな漫画家・美晴
この3人が織りなすストーリーに
何か日ごろ我々日本人が無意識に我慢している
言っちゃいけないこと?
感じちゃいけないものみたいな何かがえぐり出される。
家族は大切にしなきゃなんない。
家業は継がなきゃならない。続けなきゃなんない。
家族の面倒はみなきゃなんない。
けど個としての自分もいる。
そこ我慢しないで
個としての自分、大切にしていいんだよって
我慢ばっかりしててもダメなんだよって言ってくれる作品。
あ、こういうこと
素直に考えていいし感じていいし表現していいし言って行動にしていいんだって
ちょっと日本、家族息苦しいなって思う部分から解放される。
作中の漫画家・美晴のおかげで、そういう思い込みから解放される。
例えば
“家族に対する義務、愛憎”
“ふるさとに対する執着”みたいなもの。
アキラでいえば
俺は長男だから残された家族、障害を持つ弟の面倒みなきゃいけない。
本当は△△がしたいけど、うちは漁師の家庭で、障害をもつ弟がいるから
やりたいことは我慢しなきゃなんないし、一生、島から出れないという
呪縛。
それは確かに事実なのかもしれないし
アキラがだまって一生我慢してれば波風も立たないし
“問題化”することもない。
アキラは優しいのでその現状に我慢できてしまうんだが
本当はやってみたいこともあり(それがホヤマンなのだが)
弟の存在からも解放されたい
島からも出てみたいというという気持ちをずっと押し殺していた。
しかし
たまたま東京からやってきた美晴の存在が、行動が
アキラの我慢していた心を不器用にも抉り出していく。
その過程を見る中で
もう感情がぐちゃぐちゃにゆすぶられる。
日ごろ凝り固まったカチカチの何かが
ボクシングでパンチを連発されたかのように
愛情と血で解放されていく感じがした。
そして純粋な島の兄弟がかわいいし笑えるので
映画を見ている自分は
もう終始笑ってんのか泣いているのかわからないくらい泣いていた。
個人的には
島に住む近所のおばあちゃん・ハルコさんの
マニキュアをした爪のシーンが
何かすごい刺さるものがあった。
画面上ではおばあちゃんのマニキュアをしたピンクの爪なんだけど
そこに描かれた辛辣なメッセージがなんかすごく刺さった。
映画を見た後にスーパーにホヤを探しにいったし
髪を青く染めてみたいなと思った。
私はこの映画が大好きだ。
この映画を慈しんだ愛情いっぱいのレビュー。
大いに共感しました。
>素直に考えていいし感じていいし表現していいし言って行動にしていいんだってちょっと日本、家族息苦しいなって思う部分から解放される。
まさに。
ただ、アキラは島から出ずに弟と島で残る道を選ぶんですよね。でも顔は吹っ切れていた。春子ちゃんも残った。必ずしも「島から出る」という単純なことではないんですね。