「実験的な短編作品だけど、だからこそベンダース監督のまなざしをより近くに感じることができる一作」シルヴァー・シティー・リヴィジテッド yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 実験的な短編作品だけど、だからこそベンダース監督のまなざしをより近くに感じることができる一作

2025年5月10日
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現代映画を代表する映像作家の一人であるヴィム・ベンダース監督が、経歴の初期に制作した習作的な短編映画の一つです。

彼のフィルモグラフィを辿る行程であれば鑑賞は必須と言っても良い作品ではあるけど、前知識なく本作を観ると、モノクロームの都市風景を延々と写している本作の意図をつかみきれず、困惑するかも。

断片的で脈絡が内容に見える映像群は、ベンダース監督がかつて住んでいたミュンヘンの、当時の印象や記憶に基づいて撮影したもの、という経緯を知ると、かなり編集の意味が見えてくると思います。たとえば部屋に置いてある小物、あるいは流れる音楽もその回想的意味合いを強調しているとのこと。この辺りは当時を知る人には読み取り甲斐がありそうです。

抒情的で忘れがたい物語を綴るベンダース監督の、「語り手」としての側面は、本作からはまだ十分には見えてこないんだけど、実際の風景をあたかも心象風景のように捉える映像感覚、そして絶妙な間で入ってくる音楽の使い方など、そこかしこに後年の作品が引き継いでいる要素を見出すことができます。

説明的な解説すら削ぎ落しているので、観客の視線はより直接的にベンダース監督のまなざしと同期することになるのですが、そこには『東京画』(1985)でとらえた東京を、『PERFECT DAYS』(2023)で再び「再訪」した時のような懐かしさがあるのでした!

yui
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