劇場公開日 2023年10月20日

「一方的にアメリカは自分たちを破壊的な存在だと決め付けて、戦いを仕掛けてきたのだというハルンの台詞には思わず混迷する中東情勢を連想してしまいました。」ザ・クリエイター 創造者 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0一方的にアメリカは自分たちを破壊的な存在だと決め付けて、戦いを仕掛けてきたのだというハルンの台詞には思わず混迷する中東情勢を連想してしまいました。

2023年10月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

興奮

 AI(人工知能)と人間の共生を問うタイムリーなSF作品。原案、監督は「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」など手掛けたギャレス・エドワーズ。クリス・ワイツと共同で脚本も手がけました。

■ストーリー
 遠くない近未来、人を守るはずのAIが核を爆発させたことで、アメリカ及び西側諸国からAIを撤廃。さらにアメリカの意向に応じずAIを推進する諸国やAIが支配するエリアに戦争を仕掛けて、AI対抗の最終兵器『ノマド』を飛行させていたのです。
 そのなかで、AIの創造者“クリエイター”を暗殺するためAI支配地域となっていた「ニューアジア」に潜入した元特殊部隊ジョシュア(ジョン・デヴイツド・ワシントン)は、現地で人類を滅ぼす兵器を創り出した“クリエイター”の娘だといわれてきたマヤ(ジェンマ・チャン)に接近するものの、本気で愛してしまい、結婚。家庭仲は良く、もう少しで第一子を産む臨月を見変えていたものの、自宅をアメリカ軍が急襲し、マヤは生死不明となり、ジョシュアはアメリカに連れ戻されて、軍人を引退し、茫然自失の日々を送っていました。
 しかし“クリエイター”と開発した武器を抹殺したいアメリカ軍は、ジョシュアに道案内だけでいいからと、再度「ニューアジア」に送り込むのでした。現地では、マヤが生存していたかもしれないという情報を得て、俄然マヤ探しに希望を持つのです。その探索の中で、ジョシュアは高度なAIを搭載する少女アルフィー(マデリン・ユナ・ヴォイルズ)と出会います。実はAIが作り出した最終兵器とは彼女のことであり、あらゆる機械や武器を操れる特殊な能力を持っていたのです。しかし、人を脅かす「兵器」の印象とは違う愛らしい風貌の少女でした。やがてふたりが辿りつく、衝撃の真実とは…。

■解説
 次第に“ある理由”から、任務に背き、少女。アルフィーを守りぬくと誓う側に転じたジョシュアは、感情に左右される不確実な人間そのものです。AIを享受するニューアジアは異なる文化や価値観の隠喩として描かれます。
 斬新な映像は東南アジアや日本で撮った実景に、VFX(視覚効果)を融合させたそうです。時に浮いた印象を与えるものの、物語の躍動感につながりました。半分人間、半分機械のAIデザインもミニマルで美しかったです。

 実は、エドワーズ監督は大の親日家としても知られ、作中では日本も舞台に。そしてAI軍リーダー・ハルンという重要な役どころに渡辺謙が起用されています。
 エドワーズ監督が語るには、20年前にイギリスで「子連れ狼」を見たことを明かし、「子供と戦士の素晴らしさ、こういうものを作りたいと思い、デザインなど日本からいろいろなものに影響を受けて作りました。」とのこと。「なので、日本にお返しがしたかった」と話し、「感情に訴えかける作品です。子連れ狼を見たときから、旅が始まっている」と熱く会見で語っていました。アルフィーとジョシュアがタッグを組んで戦うところが、「子連れ狼」なのでしょう。
 さらにアフリカ系のジョン・ヲヴィツドをはじめ多様な文化背景を持つ俳優たちを起用し、アジア的で、どこか懐かしい街並みといった混沌とした雰囲気が、SFにありがちな冷たい感触を和らげてくれました。

 映画がほのめかす人間とAIの新たな関係性は牧歌的なファンタジーに思えますが、次世代技術は使いようで破壊の道具にも、良き相棒にもなることでしょう。AI軍のリーダーのハルンは、ジョシュアに「自分たちは決して好戦的ではなく、平和に人類と共存したと思っているのに、一方的にアメリカは自分たちを破壊的な存在だと決め付けて、戦いを仕掛けてきたのだ」といいます。ハルンの台詞には思わず混迷する中東情勢を連想してしまいました。
 アルフィーのつぶらな瞳に映ったジョシュアのように、試されているのは人間側なのではないでしょうか。

流山の小地蔵