「突然の事故で両親を喪った15歳・高校生の朝(早瀬憩)。 呆然とする...」違国日記 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
突然の事故で両親を喪った15歳・高校生の朝(早瀬憩)。 呆然とする...
突然の事故で両親を喪った15歳・高校生の朝(早瀬憩)。
呆然とするしかない彼女だったが、両親は事実婚。
葬儀の精進落としの席で、未成年の朝を誰が引き取るのかがこそこそと話されていた。
そんな中、彼女を引き取ることにしたのは、彼女の母・実里の妹で小説家の槇生(まきお、新垣結衣扮演技)。
実里と槇生とは折り合いが悪かった。
というか、わだかまりは実里が死んだいまでも解けていない。
しかし、槇生は朝に言う、「あなたを愛せるかどうかはわからない。でもわたしは、決してあなたを踏みにじらない」と・・・
といったところからはじまる物語。
異なる価値観・世代の女性ふたりが心打ちとけていく物語・・・を期待するのがスジなのだろうが、映画はそう簡単なホームドラマにならない。
ふたりは簡単に打ち解けない。
とはいえど、憎みあっているわけでもない。
愛せるかどうかわからないが踏みにじらないよう、互いに理解し合おうとする話だ。
人生の先輩の槇生は、いくつかの世間・社会を知っている、経験している。
朝は、まだ家庭と学校のふたつの世間・社会しかしらない。
よって朝にとっては、そのふたつの中の価値観が、社会的価値のすべて。
この設定が興味深い。
中学を卒業した朝は高校へ入学し、別の価値観を有する社会に遭遇する。
そこでは、新たな価値観もあり、それは親友その他を通じて朝にもたらされる。
絶対的な社会的価値の基準だった母。
それを疎ましく、憎みさえしていた槇生。
その根源がどこにあったか、映画は簡潔に描くが、本当のところ、何があったはわからない。
朝の母・実里にも、幼い時分に何かあったのだが、それは描かれない。
そのような、すべてが白日のもとに曝け出されるわけでない状況で、朝と槇生の心理的・精神的な距離感は縮まっていく。
ということで、本作、すばらしくいい映画なのだが、どうもわたしの心の底には何か引っかかるものがある。
終盤、海辺で佇む槇生をみつけた朝は、槇生の後ろ姿に母親を重ねる。
槇生は実里を赦さない理由を決して語らないが、朝が実里について、自分にとって少し嫌だった点を告白する(告白といっても、さらりと)。
朝の言葉に槇生も首肯するのだが・・・
個人的には、槇生と朝が心根のところで接近するこのシーンがもっともいいシーンで観終わって「すごくいいな」と思ったのだけれど、どこかにわだかまりがあった。
それはたぶん、似た者同士、叔母と姪、母と娘、姉と妹・・・
いわゆる血縁だ。
いちばんいいシーンが血縁をバックボーンとしている、その単純さが、わたしの心にわだかまりを作ったのだろう。
なんだ、やっぱり血の話だな、と。
価値観のことなるふたりの女性の違う世界の日々をつづった違国日記だったのに、つながっているのはそこなのかぁ、と。
いやまぁ、ほかのひとたちはそんなこと感じないんだろうなぁ、とも思う。
が、感じちゃったんだから仕方がない。
いや、映画、いい映画でしたよ。