「不穏さと明るさのバランスとアンバランスの良さある魅力作品」違国日記 komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
不穏さと明るさのバランスとアンバランスの良さある魅力作品
(完全ネタバレですので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
正直に言えは個人的には、作家の高代槙生(新垣結衣さん)の過去の姉・高代実里(中村優子さん)に言われた言葉は、現在まで持続して根に持ち続ける程のものではないとは思われました。
しかし、一般的には些細に思える言葉や出来事を、(おそらく原作者が持っている)執念的にも持ち続ける特異さは、作家としての才能と裏表とも感じ、事実、観客である私にも似たような体験があったなと記憶を呼び起こす力を持っていたと思われました。
一方で、中学を卒業間近の田汲朝(早瀬憩さん)は、冒頭で苛烈な体験をしながら、その後、(時折の孤独の差し込みはありつつも)意外にもほとんどが一般的には普通とは変わらない明るい学生の振る舞いをしています。
本来であれば、田汲朝はもっとトーンを落とした演技や演出で良かった気がしていて、その方が個人的には好みではあったとは思われました。
しかし、意図的かそうでないかは不明ですが、田汲朝を(苛烈な経験から想像されるよりも)明るい人物にすることで、田汲朝を演じた早瀬憩さんの自然で瑞々しい演技を引き出していたように感じました。
加えて、作家の高代槙生の、槙生の姉であり朝の母でもある高代実里の(外からは些細にも思える)過去の言葉に現在も引きずられている不穏さと、田汲朝の、苛烈な体験にもかかわらず想像するよりも明るい振る舞いの、対比と関係性は、作品の中に何とも言えない魅力を湧き立たせていると思われました。
この映画『違国日記』は、冒頭以降に起こるそこまで大きくない出来事が重なる2時間を超える長めの作品であるのに、最後まで惹かれて観ることが出来たのは、この高代槙生と田汲朝の、2人の主人公による互いのバランスとアンバランスさによってもたらされたのが理由だと思わさせる、非常に魅力ある作品でした。